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第35夜:山形のこけし(小林栄蔵)

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戦後の山形系こけしを支えてきた重鎮の小林清次郎さんが亡くなり、山形系のこけし工人はすっかり寂しくなってしまった。昭和40年代から50年代の第2次こけしブームの頃には、小林家の本家、倉吉を継承する工人達がそれぞれ特色のあるこけしを作って盛況であったが、今では、清次郎の息子の清さんのみになってしまった。国恵志堂は山形系では吉太郎型のこけしを重点的に集めて来たので、特に本家筋のこけしとは縁が薄かった。今夜は最近入手した小林栄蔵のこけしを改めて見てみたいと思う。口絵写真は、戦前栄蔵こけしの表情である。

実はこれまで栄蔵のこけしは1本も持っていなかった。魅力を感じるこけしに出会わなかったからである。ところが、先日ヤフオクに出た戦前の栄蔵のこけしを見て、その形態と表情に惹かれるものがあり、国恵志堂に来てもらったのである。

「こけし辞典」によれば、小林栄蔵は明治40年、山形市旅籠町の生れで小林倉吉の5男である。大正9年高等小学校在学中から倉吉についてロクロを習得。大正10年頃からこけしや玩具を作り始め、昭和2年には完全に一人前になったという。その後、兄清蔵工場の職人をしていたが、17年に独立。戦後も木地業を続けたが、30年以降は長男孝太郎の木地に描彩が中心となった。平成10年12月25日、92歳で逝去した。

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さて、本項のこけしを見てみよう。大きさは9寸7分。裾が括れて台状になった胴に、横広の大きな頭を乗せている。この形態のこけしは、山形系では古くからあったようで、倉吉の大正末期の大頭こけしが「こけし這子の話」に載っている。この倉吉のこけしは頭が縦長であり、胴裾の括れも小さく、胴の花模様もかなり異なっているが、この栄蔵こけしがそれを引き継いだものであることは間違いないだろう。ちなみに、本項のこけしとほぼ同手で頭だけ縦に長い作が「山形のこけし」に載っている。倉吉のこけしは、面描の線が細く、雅で上品なこけしであるが、それと比べてこの栄蔵のこけしは表情が素朴であるが、大きな前髪と太い鬢には力強さが感じられて好ましい。

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さらに、この栄蔵こけしでは後頭部に前髪より更に大きな後髪が描かれており、その左右には4筆の赤い飾りも描かれている。勉強不足で他の山形系こけしにこのような様式があるのかどうか分からないが、山形系の古い様式なのかも知れない。

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