第44夜:佐藤吉雄のこけし(2)
秋保こけしと言えば、美人こけしで有名な菅原庄七が先ず頭に浮かぶが、同じく三蔵の兄弟弟子であった山尾武治や佐藤吉雄も庄七に引けを取らない良いこけしを作っている。この3名とも戦前から戦後にもこけしを作っているため、その変化もそれぞれにあって興味深い。その中で、今夜は佐藤吉雄のこけしを眺めてみたい。吉雄のこけしについては千夜一夜(Ⅰ)の第564夜で紹介しており、その続編ということになる。口絵写真は、昭和20年代前半と思われる吉雄こけしの表情である。
先ず、こちらの写真を見て頂きたい。左は(Ⅰ)564夜で紹介した昭和14年頃の吉雄こけし。大きく太い前髪と鬢、太筆で描いた眉目の筆致が魅力的なこけしである。右は「29.5.27」の書き込みがあるこけしで、胴裏下部に「秋保温泉 佐藤吉雄作」の署名がある。赤、緑、黄にはポスターカラーが使われているために退色がない。左のこけしでは胴の重ね菊で赤点と緑点の間が抜けているように見えるが、そこには黄色が塗られていたことが、右のこけしを見ることで分かるのである。中央のこけしは戦後の昭和20年代前半と思われるこけし。平頭で全体の雰囲気は右のこけしにかなり近い。こちらは描彩に普通の染料が使われている。前髪と鬢の描彩に勢いがあり、眉目にはアクセントが入っていて凛々しい表情をしている。目の周りがうっすらとピンクに塗られているのが何とも色っぽい。集中力のある面描に比べて、胴の重ね菊模様は筆に勢いがなく単調で寂しいのが残念である。
こちらの写真は、括れ洞に梅模様の吉雄こけしである。左は前写真の左と同じ14年頃の作で大きさは6寸弱。筆太に描かれた眉目鼻、二筆でぼってり描かれた紅口など全く同じである。この頃は前髪の先が2つに分かれていない。胴の括れた部分の裏側には桃が描かれている。中央は昭和15年頃の作。やや筆が細くなったがその分切れが良くなり精悍な表情になってきた。右は昭和20年代後半から30年代か。前写真の右と同趣であるが、ポスターカラーは使っていない。胴裏下部に署名あり。
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