第86夜:「かゞ山」印のこけし(佐藤文助)
最近、ヤフオクに胴底に「かゞ山」という印が押されたこけしが出品されている。こけし界で「かゞ山」と聞けば、東京こけし友の会の初代会長の加賀山昇次氏が思い浮かび、この加賀山氏のコレクションと思われる。この「かゞ山」印のこけしを紹介しよう。今夜は佐藤文助のこけしである。文助は、丑蔵と共に戦後の遠刈田こけしの2大巨頭と言われた工人で、第二次こけしブームの頃は難物工人ということもあって、なかなか入手が難しいこけしであった。目の大きな愛らしいこけしではあったが、年を重ねるに従って硬直した表情となり、眉毛や上瞼にギザギザを入れるようにもなった。戦前の文助こけしは華麗な美人こけしで人気も高く、良品の入手は難しく、国恵志堂にも入手出来ない状態が続いていた。口絵写真は、「かゞ山」印の文助こけしの表情である。
佐藤文助は明治34年、青根の生れ。佐藤文平の次男である。文助は小学校の頃からロクロに親しみ、こけしも作っていたが、尋常小学校卒業後、正式に父文平について木地修業を始めた。文助は大正時代にはこけし等の玩具はもちろん、横木の難しい木地製品も作れるようになり、その後各地を転々とした後、遠刈田新地に木地工場を建てて独立・開業した。昭和15年には遠刈田温泉に自宅と工場を新築し、以後昭和52年、77歳で亡くなるまで遠刈田で木地業に従事した。
先ず、こちらが胴底に押された「かゞ山」印と署名。39歳作であることが分かる。
こちらが全体像。大きさは8寸。今流の言葉で言えば「小顔」のこけし。胴の長さ・太さに比べて、頭部が小さく、均整のとれたバランスとは言い難い。ほぼ同手のこけしが「古計志加々美」に載っている。このこけしの一番の魅力は、何と言っても張りのある表情に尽きる。綺麗に左右に振り分けられた前髪、そこから鬢にかけて水平の鬢飾りが細かく描かれる。鬢は下部が後ろに跳ねる古い様式。大きく勢いのある眉、やや湾曲の大きな三日月目は目尻がやや上がり気味で、表情に緊張感を与えている。小さめな丸い眼点は、正面に強い視線を送っている。成人手前の凛々しい乙女と言えるだろう。太めの胴は上下に2本ずつの紫ロクロ線で締め、その間に重ね菊を5段に重ねている。重ね菊の最下部には緑の茎のような模様が描かれている。39歳ではあるがピーク期一歩手前の遠刈田の古い様式を残したこけしと言えるだろう。
文助のこけしは昭和12年以前のものは発見されていないようで、本格的な製作(復活)は昭和14年(39歳)なってからのようである。そのピークは39歳から40歳頃と言われ、着飾った妙齢の美人こけしとして人気が高い。眉目の湾曲は小さくなり、下瞼が水平に近くなって眼点も大きくなる。そのため、表情は明敏で潤いを持った優しいものとなる。胴模様にはロクロ線を絶妙の配列と配色で並べ、文助のロクロ模様は絶品と言われている。胴上下のロクロ線も赤が主体となって全体的に明るい色調になっていく。
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