第88夜:「かゞ山」印のこけし(渡辺幸九郎)
熊本大地震の本震が被災地に更なる大被害を与えてから1週間が経った。九州新幹線も熊本の一部を除いて開通し、復旧作業も軌道に乗ると思われるが、被災者の方々のご苦労はこれからでもある。挫けずに頑張って頂きたい。
さて、今回も「かゞ山」印が押されたこけしである。弥治郎系の渡辺幸九郎のこけしである。幸九郎のこけしについては、千夜一夜(Ⅰ)の第536夜と第661夜で紹介しているが、それらとはやや作風が異なり、時代的にもやや古いものと思われる。このこけし、姿・形といい、描彩といい何とも気品のあるこけしである。通常、こけしは女の子を表したものであるが、このこけしはその中でも「良家の子女」を思わせる雰囲気を持っている。綺麗な着物を着て、うっすらと化粧を施した幼い女児である。お祝いの日なのであろうか・・・。口絵写真はその表情である。
こちらが、その幸九郎こけしの全体像と胴底の「かゞ山」の押印である。大きさは8寸5分。頭はほぼ円形で、胴は襟巻の下が太く裾に行くに従って微かに広がっている。どっしりとして安定感のある形であり、頭と胴のバランスが素晴らしい。幸九郎の胴模様はロクロ線だけのものが多いが、本項のこけしは手描きとロクロ線の折衷様式であり、胴中央よりやや下に赤と紫の太いロクロ線を配し、その上部の胸の部分には菊花を、下部の裾部には赤と緑で裾模様を描いている。どう見ても普段着ではなく、お出かけ用の晴れ着を思わせる。頭部のベレー帽模様は、中心から紫、赤、緑、そして外縁部は紫のグラデーションである。そのベレーの外側には髪を描き、正面の額には赤い半円を二つ描いて、その上から黒い前髪を二筆で描き添えている。また鬢上部には赤い半円の飾りを描いている。鬢は平筆風で短く力強く下し、鬢飾りは赤3筆と緑4筆で簡単に添えられている。眉と上瞼は短いが力があり丸い眼点が何とも愛らしい。円らな瞳は幼子の純真無垢な童顔そのものである。鼻は古い様式の撥鼻、口は黒と紅で小さく描かれている。ほんのり残っている頬紅が愛らしさをより増している。昭和14年頃の作であろうか。幸九郎のこけし歴の中でも、最も完成度の高い時期のこけしなのではなかろうか。
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