第95夜:作田栄利のこけし(3)
遠刈田系の作田栄利のこけしは、それほど人気のあるこけしではないかも知れない。しかし玄人受けするこけしなのであろう。「木の花」では第弐拾号の『戦後の佳作』と第弐拾六号の『戦後の栄利こけし』で詳しく解説されている。栄利は遠刈田の名門吉郎平の弟子で大正時代からこけしを作っているが戦前で残るこけしは昭和15年に友晴の木地に描彩したものが中心で、そのこけしの多くは戦後のものである。戦後は昭和24年頃より作っているようだが、文献等での紹介は28年頃からのものである。先日ヤフオクに出品された栄利こけしは28年より古いものと思われ入手した。今夜はそのこけしを紹介したい。口絵写真は、その栄利こけしの表情である。
こちらが今回入手した栄利こけし。大きさは7寸。胴底には「作田栄利」と記載されているが本人署名ではないだろう。戦前の栄利こけしは、吉郎平系列の特徴である丸頭に辛口の表情で、描彩は松之進の影響が強いという。本項のこけしも丸頭でおっとりとした表情であるが、決して甘い表情ではない。表情、胴模様とも戦前の雰囲気を色濃く残したこけしになっている。ただ、胴上下のロクロ線は戦前の紫ではなく戦後の緑色が使われている。どれでは、戦後のピーク期と言われる昭和28年のこけしと比べてみよう。
左が56歳(昭和28年)のこけしで、右が本項のこけしである。28年作の方がやや頭が角張っている感じはするが、肩の張った太目の胴など木地形態はほぼ同じである。戦前作(友晴木地)は頭がやや縦長で肩の張りが少ないようである。
こちらは頭頂部の手絡模様。左は、頭頂部の緑点から真後ろに伸びる1本の手絡がくねっているが、右では頭頂部の緑点の後ろに赤点があり、放射状の手絡は全て真っ直ぐでくねっていない。これは青根や遠刈田の古いこけしに見られる様式であり、栄利の戦前作もこのように描かれていると思われる。
次に表情である。左はピーク期のこけしだけあって、眉目の描彩は勢いがあり湾曲も大きくなってアクセントも入っている。鋭い視線を放っている。一方、右は眉目の描彩は優しく、湾曲も少なく、大らかな表情になっているが甘い表情ではない。鬢飾りは両方とも前髪の下端から始まっているが、左は鬢の位置がやや下がっているため鬢飾りが斜めに直線的に描かれている。右では鬢の位置がやや高く鬢飾りはやや膨らんで描かれている。この辺りの描彩も、右の方が戦前作に近い。
最後に胴模様である。左のこけしでは、重ね菊の各花弁が中央に寄って細く立っているように描かれているが、右では各花弁が横に離れて描かれており、実にゆったりと大らかに描かれている。これも戦前に相通じる描彩であり、右のこけしが戦前の栄利こけしの描彩の特徴をよく残しているのが分かるのである。このようなことから、本項のこけしは昭和24年の戦後の復活から間もない時期のこけしであると推測される。
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