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第93夜:荒川洋一さんの氏家写し

Yoichi_ujiie_kao

2年越しで製作をお願いしていた荒川洋一さんの氏家写しが送られて来た。氏家亥一のこけしは橘文策氏の「木形子談叢」に2本掲載されているが、その内の1本大きい方が平成25年の10月にヤフオクに出品されて首尾よく入手、その年の12月に「ねぎし」で開催された山河の響会の展示会で上京された荒川さんに依頼したものである。その時の写真はKokeshi Wikiの荒川洋一の項に載っている。荒川さんは鹿間時夫氏の依頼でこの氏家型を作り始めたとのことであるが、現物を見たのは今回が初めてで、現物を見れば見るほどその難しさが分かり、一旦は写しへの挑戦を中断したとのことであった。荒川さんは今回の製作で勉強になったことも多かったと話しており、写し製作の意義を改めて再認識させられた。口絵写真は、その氏家写しの表情である。

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こちらが、原(中央)と写し。写しは原寸(左:1尺1寸2分)と7寸(右)の2種類を作って貰った。原の氏家こけしについては、千夜一夜(Ⅰ)の第873夜を参照されたい。原寸写しは原をほぼ忠実に写しているが、木地形態では頬と胴上部がややふっくらしている感じである。前述のKokeshi Wikiには荒川さんの氏家型初作と思われる作が載っているが、そちらは「木形子談叢」の写真による復元であり、今回の写しとはかなり作行が異なっているのが分かる。なお、胴のロクロ線に関しては、今回も原がかなり退色しているため、荒川さんの考えで再現されている部分もある。胴上部にかなり白い部分があるが、この辺りも実際にはロクロ線が引かれていたのかも知れない。

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次に頭部の描彩を見てみよう。頭頂部、正面と裏面から見たところである。今回、現物を見たことにより、細部や写真では分からない部分も確認出来、より忠実に再現されている。先ず、頭頂部では黒の蛇の目の周りに細い赤線が隈取のように引かれているのが分かる。また、2本線の赤いカセも大きく、しかも外側が太く内側が細く描かれている。この赤線は強烈な印象を与える。眉と三日月形の二側目は小振りではあるが気品がある。横広の写実的な鼻、墨で縁取りをし紅を塗った口、目の周りのほんのりとした紅など、原の雰囲気を良く再現していると思う。

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前髪と鬢について、荒川さんは「原」は薄墨と濃墨が使われていると言う。これは描彩に深みを付け立体感を出す効果があり、浮世絵などでも用いられる描法である。荒川さんは遠刈田の古いこけしでこの描法を見たことがあり、遠刈田系との関連も指摘されていた。

今回の写しの製作を通じて荒川さんは次のように感じたと言う。氏家亥一のこけしは手が込んだ描法で格調が高く、他の善吉のこけしとは雰囲気がやや異なる。歌舞伎で言えば、氏家型は都会の本格的な歌舞伎、善吉こけしは田舎歌舞伎とそのくらいの違いはあるとのこと。この氏家こけしは今では善吉作という事で定着しているが、善吉が氏家型と本人型を描き分けていたのかどうか、疑問が残る点である。この氏家型は「こけし談叢」の2本しか知られていないが、これだけの完成度のこけしが一朝一夕に作れるはずはなく、他にも出て来ることを期待したい。

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最後に、今回の写しをこれまでの荒川さんの氏家型と比べてみよう。左が今回の写し7寸で、右は従来の氏家型8寸、鹿間氏の依頼した氏家型である。右の氏家型も良く出来たこけしであるが、木地形態、描彩ともかなり異なっているのが分かる。

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頭頂部とカセを比べて見た。右の氏家型では、一般的な善吉こけしの蛇の目とカセの様式が使っているのが分かる。蛇の目の周りの隈取と丁寧に描かれた大きな赤いカセは右の善吉様式と比べて気品があり、この辺りにも、都会歌舞伎と田舎歌舞伎の違いの片鱗が窺われるも知れない。

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