第121夜:寿彦の勘治型
8月の友の会臨時例会(中古こけし頒布会)で、一般頒布品の中に遊佐寿彦の勘治型のこけしがあった。保存状態が非常に良く、表情も含めた出来栄えもなかなかのものである。何と言っても原寸というところが気に入った。寿彦の勘治型は小寸ものが多く、原寸は少ないのである。筆者も初めての出会いであった。抽選での頒布順番が早かったため運用よく入手することが出来た。今夜はそのこけしを見て行こう。口絵写真はその表情である。
こちらが全体像である。大きさは原寸(1尺1寸5分)。胴底に「’92-6-28 伊勢」の書き込みがあり、1992年(平成4年)の伊勢こけし会で頒布されたこけしと思われる。頒布のために特別に発注したのであろうか。胴は黄胴に菊の赤と葉の緑が映え、実に鮮やかなこけしである。頭頂部の大きな髷に比べると鬢はやや細め。眉・目の筆致は力強く、勘治型にしては小振りの目も視線は強い。勘治の「原」とはやや異なる雰囲気ではあるが、寿彦の個性が出た勘治型としては立派なこけしと言えるだろう。
寿彦がいつから勘治型を作り始めたかは確認していないが、友の会での頒布をこけし手帖の写真で確認すると平成3年3月が初めてである。その写真には、いずれも30歳台である寿彦、義一、敏文の3名の勘治型が載っており、「高勘」本家の盛雄や福寿を筆頭に、柿澤是隆や滝島茂も働き盛り、「高勘」の前途は洋々たるものがあった。義一と是伸の二人になってしまった今を思うと、隔世の感がする。
こちらは、同時期(平成4年)の父福寿作の勘治型(左)と並べたもの。この頃、福寿は多くの注文を抱えて忙しく、寿彦はその木地挽きを一手に引き受けていた。そのためもあってか原寸のこけしはなかなか作れなかったのであろう。
手持ちの寿彦の勘治型を並べてみた。6寸と7寸しか持っておらず、この大きさが良く作られていたのであろう。左から平成3年3月(手帖掲載品)、4年1月、4年中頃、5年6月、7年9月、8年6月。左から3本目が今回の原寸と同時期のものだろう。作風に大きな変化は見られないが、右から3本目から葉の緑色が濃くなり、上瞼の目尻が長く伸びて鯨目風に変わっていく。これが寿彦なりの勘治型ということになるのであろう。しかし、寿彦は程なくしてタクシーの運転手となり木地業から離れてしまう。
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