第130夜:栄利を極める!
戦前の作田栄利がやってきた。昨夜の芳藏と同一出品者のこけしである。栄利のこけしは国恵が好きなこけしの一つで、第569夜以降、第690夜、(Ⅱ)第95夜と、その探求結果を紹介してきた。その中で目指していたのは、やはり戦前の栄利こけしであった。吉郎平の弟子で松之進の影響を受けたという栄利は大正年間からこけしを作っていたとされるが、昭和15年に友晴木地に描彩した復活作以前のこけしは知られていない。従って、この15年作が栄利こけしの一つの目標であった。口絵写真は、その戦前栄利こけしの表情である。
こちらが本項の栄利こけし。大きさは7寸8分。やや縦長の頭で肩の張りが緩めな点など、友晴の木地と思われる。胴上下をやや太めの2本の紫ロクロ線で締め、その間にゆったりとした重ね菊を4段に重ねている。裏面下部が日に焼けていて緑色が消失しているが、赤いアヤメの花が2輪残っており、遠刈田の伝統に即した裏模様が描かれていたことが分かる。後頭部には山形の赤3線も描かれており、これも含めて、遠刈田の古式に則ったこけしであることが分かる。
さて、面描はどうであろうか。前髪は頭頂部の緑点からバッサリと描き、その下端から鬢飾りを水平に描き下ろしている。眉・目・鼻は顔の中央より上で、眉は真ん中にアクセントが入っている。上瞼の湾曲は少なく、下瞼は右上がりの水平線で、その間に強めの眼点を入れている。鬢は眉の辺りから顎にかけて長く雄大に描き下ろしている。剛直で気品と風格を備えた表情は松之進譲りと言えるだろう。
作行の変化を見るために戦後の作と並べてみた。右より昭和15年、20年代中頃、29年、33年の作。戦後作では、胴のロクロ線が緑になる。また、一番上の重ね菊の上部にも添え葉が入る。目は戦前作では顔の上方にあるが、戦後作では顔のほぼ中央に落ち着く。右端と左端を比べるとその差は大きいように思えるが、このように並べて比べると、その推移が良く分かる。
次に、頭頂部の様式を見てみよう。頭頂部の手絡は戦前は前髪の後の緑点から放射状に延び、後頭部には3山線が入る。戦後直ぐ(右から2番目)では緑点の後に赤点が入り、そこから手絡が延び、3山線は無い。29年になると、赤点、緑点が無くなり、頭頂部から真後ろの手絡1本がくねるようになる。左端では、手絡のくねり線が短くなり、その後ろに3山線のようなものが小さく描かれる。
今回入手した戦前の栄利こけしは緑色が相当退色しており、胴下部に日焼けがあるなど完品ではないが、戦前栄利の特徴を十分に保ったものであり、これを持って、国恵の栄利こけし追及も一段落を迎えたことになる。
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