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第142夜:今年の逸品(渡辺求)

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今年もあと20日余りを残すだけとなった。最近はこけしの整理にも努めているが、まだまだ「物欲」に抗しきれず、この1年間で100本を大幅に超えるこけしが集まってきた。今夜はその中でも特に気に入っている渡辺求のこけしを紹介しよう。この求は一目見て欲しいと思ったこけしで、その最大の魅力は表情である。やや上方に視線を向けた眼点の大きな明敏な瞳に魅せられてしまったのある。その上で、大きさ、木地形態、描彩、保存状態なども満足のいくものであり、入手の最終関門となる価格も相応のものであった。年金生活の身であれば、3万円台が一つの目安になろうか。口絵写真はその求こけしの表情である。

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こちらが、その求こけしの全体像である。大きさは8寸6分。胴底には、米浪氏のマークと「昭13年」との書き込みがある。頭はやや長めの丸頭。頭と胴は緩めの嵌め込みでクルクル回る。胴は直胴に近く、首のところでやや細まり、裾部は弥治郎の古式に則ってかすかに広がっている。頭頂部は黒一色のロクロ帯、額には緑・赤・緑の半円形の飾りを3つ並べ、その横から後頭部にかけて手描きの髪を描いている。胴は上下に赤ロクロ線を引き、中央部には黒ロクロ線を帯状に引き、その上下に太い赤ロクロ線を添えている。その帯の上部には重ね菊を、下部には椿模様を描いている。

さて、ここで求のこけしについて調べてみよう。
「木の花(第四号)」の『渡辺求のこけし』にて中屋惣舜氏が詳しく解説をしている。そこでは製作時期を4期に大別している。(A)大正期、(B)磐梯熱海前期(昭和2,3年~8,9年)、(C)同中期(8,9年~15年頃)、(D)同後期(16年~43年)である。そして、この4期の各特徴は概ね次の通り。(A)一側目、丸鼻、(B)丸頭、丸目(十日月目)、猫鼻、(C)縦長の丸頭、眼点の大きな三日月目、バチ鼻、(D)角頭、眼点の小さな三日月目、猫鼻、首に襟巻が付く。

本項の求こけしは昭和13年との記入があり磐梯熱海中期の(C)に該当し、その特徴を全て備えている。中屋氏はこの時期の求こけしをピーク期と称している。なお、この13年頃より、胴中ほどに黒い帯が入り、胴下部には椿模様が描かれるようになるとある。この様式は(D)の熱海後期の代表的な模様になるが、後期ではさらに胴裾のロクロ線も黒になり、首には襟巻がつくようになる。

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では、表情について具体的に見ていこう。右が本項の中期(昭和13年)の作で、左が千夜一夜(1)の第412夜で紹介した後期(昭和16年)の作である。後期の顔も良く筆の伸びた緊張感のある鋭い良い表情であるが、こうして並べて見ると、中期の方が更に筆に勢いがあり、眉にはアクセントが入り、下瞼からはみ出た大きな眼点が見る者を惹きつける。両目の間隔も狭く集中度も強い。前述の「木の花」では昭和10,11年頃のほぼ同様の作を「求の最高傑作の一つ」と絶賛しているが、本項のこけしの表情はそれに勝ると劣らないものと自負している。正に「ザ・求」と言えるこけしで、求こけしを1本残すならこれを置いて他に無い。古品の良さを横溢させる逸品と言って良いだろう。

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