第189夜:高田稔雄さんの幸太型
先日(28日)の友の会5月例会に高田稔雄さんの幸太型が出品されていた。既にご承知のように、高田稔雄さんは5月の全日本こけしコンクールで最高賞の内閣総理大臣賞を受賞しており、それと同寸・同型のこけしであった。受賞後の作ではあるが、一か月以内に作られたものであり、貴重なこけしである。その人気作を何とか入手できたのはラッキーであった。稔雄さんは今年の新年例会の招待工人であり、また2月のおみやげこけしにもなっており、友の会としても注目している弥治郎の新人工人である。幸太型が好きな国恵にとっても嬉しいことであり、受賞を祝したい。口写真は、その幸太型こけしの表情である。
弥治郎の古い木地師である佐藤幸太は明治18年に青根に赴き、丹野倉治の工場で田代寅之助について木地技術を習得した。また伊沢為次郎からも指導を受け、20年に弥治郎に戻って、佐藤栄治とともに新しい木地技術を弥治郎に伝えた。その幸太のこけしは1本のみ知られており、幸太の息子の佐藤慶治、春二により復元され、その後、幸太系列の多くの工人により復元されている。特に春二は昭和35年頃から復元を始め、自身の工夫を加えた各種の幸太型を作り出した。
こちらに、春二の初期の幸太型(右)と稔雄さんの師匠の慶明さんの幸太型(左)を並べてみた。春二作は昭和35年8月の鉛筆書きがあり、幸太型を作り始めて間もない頃の作で原作に近いこけしである。慶明作は製作時期は不明だが、慶明の幸太型は各種アレンジされて胴の異常に長いものなども作られているが、本作は首の段が大きくなっている以外は原作に忠実な幸太型である。真ん中の俊雄さんの作をみると、木地形態は肩の段以外は慶明作を引き継いでいるのが分かる。また、胴のロクロ線の配色や頭部の描彩も慶明作に習っている。面描は慶明作は優しい表情であるが、稔雄作は張りのあるキリッとした表情である。
さて、幸太型はこれまで多くの工人により作られてきたが、三大コンクールでは最高賞はおろか上位の賞に輝いた記憶が殆どない。コンクール等では、華やかで見栄えのするこけしが上位になることが多く、すっきりしているが単調な幸太型はあまり評価されなかったのであろう。そんな中で、こけしを作り始めてまだ間もなく新人と言っても良い稔雄さんが三代コンクールの一つで最高賞を取ったのはどうしてなのかと考えてしまう。稔雄さんは幸太型のほかに今三郎型や慶明型も出品している。思うに、稔雄さんもまさか幸太型が最高賞を受賞するとは思わなかったのでないだろうか。幸太型は木地形態は直胴の下部に鉋溝2本、胴模様はロクロ線のみの単純なもの。工人にとっては組みし易いものの特徴が出しにくいこけしでもある。そんなことから腕に自信のある春二や慶明も多様な幸太型に挑戦してきたのだと思う。作り始めて間もない稔雄さんには未だそんな余裕はなく、原に忠実に木地を挽き、ロクロ線を入れたのであろう。従って、勝負は頭部の描彩にかかることになる。白木地に良く筆の伸びた眉・目の描線は瑞々しく、それがシンプルな胴模様とよくマッチし、現代風な精悍な幸太型が出来上がった。それが審査員の高評価を受けたのであろう。1部(伝統こけし)と2部(創作こけし)との決選投票ではこの幸太型が圧勝だったと聞く。通常、僅差で決まる決勝では珍しいことだったそうだ。いかにも伝統こけしという感じではなく、シンプルで斬新なこの幸太型が、創作こけしの審査員にも受け入れ易かったのであろう。
稔雄さんの目標は春二の古型だと言う。今回の受賞を糧にして、将来、春二古型で再び最高賞を受賞することを祈念して止まない。その時こそ、稔雄さんの本当のこけしの完成と言えるのだと思う。
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