第195夜:福寿の勘治型(S30年代前半)
東京こけし友の会の例会では、会場前方のテーブルに頒布用のこけしが並べられている。向かって中央に中古こけし、右に新品こけし、そして左に入札と抽選のこけしである。会場に入ると先ずは入札こけしの所に向かうことが多い 。昨25日の例会では、入札こけしの中にお馴染みの大きなこけしが並んでいた。近づくと「こんにちは」とにっこり微笑んでいる。それが福寿さんの勘治型であることは直ぐに分かった。今夜は、運よく国恵志堂「福寿コレクション」に仲間入りしたこけしを紹介する。口絵写真はその表情である。
そのこけしに近づくと、おもむろに手に取って表情を見る。「うん!、なかなか良い顔だ」。次いで、胴の側面に目をやる。可愛らしい蕾が4つ描かれている。そして胴底を見る。丸い鉋溝の中に「福寿作」の署名と「34.1.21」という福寿さんの筆と思われる書き込みもある。昭和34年の福寿勘治型だということが分かった。退色も無く保存状態も良い。
こちらがそのこけしで、大きさは勘治の原寸よりやや大きい尺2寸。「これは何としても欲しい。」 横には昭和37年の、こちらも保存の良い佐藤重之助のこけしもあったが、「二兎追うものは…」の格言もある。ここは福寿1本に絞って行こうと心を決める。さてそうと決まると、次は価格である。最低価は1万円。高額を入れれば落札の確率はそれだけ高くなるが、開札で次点との差があまりにも大きいとちょっと気恥ずかしい。とは言え、セーブしたために取り逃したこけしも過去多数に上る。ここはある程度の決断は必要…。結果は、次点と大きな差は無く、落札できて胸を撫でおろした。
以前に入手した同寸の福寿勘治型(左、第700夜参照)と並べてみた。左は昭和32年頃の勘治型。木地形態は殆ど同じ、胴模様の様式も似ているが、蕾は描かれていない。面描では、本作の方が鬢が太く大きくなり、目も両瞼の間が太く眼点も大きくなってまろやかな表情になっている。また、前髪と髷、鬢の間に描かれる鬢飾りの様式が西田勘治の様式になっており、蕾も入れて、西田勘治をかなり意識して作ったものかも知れない。
最後に署名を見てみよう。左2本は上写真の2本。左は遊佐姓になって間もない頃(S32年)の署名。真ん中は本作で署名は丸い鉋溝の中に「福寿作」と入れる「高勘」本家の様式。右は34年末の作であるが、「高勘」様式ではなくなって、以後はこの署名となる。従って、「高勘」様式の署名は32年から34年までの3年程だったことが分かる。この時期には新型(創作)こけしも沢山作っており、それらの署名にもこの違いが表れている。
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