第199夜:危なかった竹雄こけし
この竹雄のこけしを求めたのは都内のこけし店で、ほぼ1年前になる。鳴子の大沼竹雄の古いこけしであることは直ぐに分かったが、左側頭部が黒く汚れている。竹雄古作にしては程々の価格だったのはその難点があったためであろう。入手後、本ブログにあげることも無く、そのまま仕舞込んでいた。先日こけしの整理中に出てきたが、黒い汚れのため手放そうとしていたら、それを知った同人から諫言を受けてしまった。そこで改めて良く観賞し、調べてみるとなかなかの作だという事が分かってきた。危なく貴重な竹雄古作を手放すところであった。諫言をしてくれた同人には感謝しなければならない。口絵写真はその竹雄古作の表情である。
こちらが全体像である。大きさは6寸6分。丸頭にやや下部が広がった細めの胴ですっきりとした形態である。胴にも肩の山にもロクロ線の無い白胴で、下部にやや太い鉋溝が1本入っている。胴模様は得意の石竹模様で緑の茎・葉も確認できる。向かって左の眉尻・目尻が下がっており、目と目の間が離れていて、おおらかでおっとりとした表情である。きっちりと描かれた楷書体時代の作とは明らかに異なる雰囲気を持っており、草書体時代の作である。
こけし手帖623号では談話会覚書(12)として大沼竹雄のこけしを取り上げており、その中の写真②には「痴娯の家」旧蔵品として6寸5分のこけしが掲載されている。これが本作とほぼ同様の作であり、次のように解説されている。『頭は丸く、写真①のような蕪頭ではない。胴は写真①に比べ少し細い。肩は低めで胴下部に太いカンナ溝がある。四筆の鬢の間の間隔が広がり、顔の面積が広がっている印象を受ける。向かって左の目尻、眉尻が下がる描き癖と赤の二筆の口の描彩が右によることから首を傾げた童女の風情がある。丸鼻は大きく横広がりである。胴模様は石竹、花弁が少し長くなる。胴底の丸爪の跡がある。昭和初期の作と思われる。』と。
側頭部の黒い汚れはこんな感じ。墨を塗ったのであろうか。焦げ跡のようにも見える。大きな鬢飾りは隠れているが顔の部分にかからなかったのが救いである。
こちらは胴底。胴はまん丸ではなく楕円状になっている。長年による木地の変形であろうか。丸爪の鉋跡があり、「十和田」と書かれていると思われる。竹雄のこけしは繋温泉や十和田湖などに出していたようで、本品もその1本なのであろう。
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