第215夜:「鑑賞」のこけし(長谷川辰雄)
先日、伊太郎こけしを入手した際、「こけし鑑賞」で伊太郎の項目(162頁)を見ていて、ふと次の頁(164頁)を開いた。そこには長谷川辰雄のこけしが2本載っていたのであるが、右側の1本は最近入手したこけしに酷似しているのに気付いた。問題のこけしは、長谷川辰雄の金次郎型こけしであった。ヤフオクで古品が6本程纏めて出ていたのを入手したものであるが、一様に表面にニスが塗られているようで、そのピカピカ感が古風さを損なっているようで箱に入れたままであった。しかし、「鑑賞」にも載っていたことから改めて見直したものである。口絵写真はその表情である。
「こけし鑑賞」に載っているこけしは大きさ尺で昭和13年11月に仙台桜井玩具店で求めたもので金次郎名義とのこと。鹿間氏の評は次のようなものである。『このこけしの面描は一種怪異、細い下がり目は斜視で、三白眼が強く、グロテスクな泥臭さは原始美術にみうけるような啻ならぬものである。比較的絵心のある辰雄は兄や島津、三上などの木地に片っぱしから、スタイルを変えて描いた。・・・』と。
さて、こちらが本項のこけし。大きさは6寸。小さいためか胴上下のロクロ線の本数が少ないが、木地形態・描彩とも「鑑賞」の辰雄と同手である。ロクロ線は赤と紫の2色。赤と緑を交互に配した重ね菊は4段で、胴全面を埋めるのではなく、上部に空間をとったバランス感覚が巧みである。スラっとしてロウソクのようなこけしである。最大の見どころはやはり表情であろう。津軽の古品の「笑い」は単に喜びを表現したというような単純なものではない。そこには悲しみや辛さ、諦めの感情も含まれており、地の底から這いあがってきたようなドロドロとした不敵な笑いである。先日紹介した伊太郎の表情もまさにそのようなものであった。そして、この辰雄の金次郎型も…。眉は「鑑賞」のこけしより太く、その分表情に力がある。三白眼の斜視であるため視線は定まっておらず、その笑いの奥にある感情は計り知れない。ニス塗りが無ければと、それが惜しまれる。
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