第238夜:戦前の初見こけし
東京こけし友の会の例会で入札は楽しみの一つである。最近は古品が出ることは減ってきたが、それでも担当幹事さんのご努力で毎回、2,3点は古品が並んでいる。今月はどんな古品があるのかとワクワクしながら入札コーナーに向かう。そして、今回釘付けとなったのは松田初見のこけし。戦前の鳴子で初見や竹雄のこけしは山のようにあったと言われているが、岩蔵や武蔵に比べたらそれらが出てくることはあまりに少ない。という事は残って居ないという事で、大事にされなかったのであろうか。今回の入札ではこの初見に的を絞って挑戦したが、近くに居る強敵に競り合って僅差で入手出来たのはラッキーの一言。今夜はそのこけしを紹介しよう。口絵写真はその初見の表情である。
こちらが本こけしの全体像。大きさは古品定寸の8寸5分。胴は殆ど反りの無い直胴で、裾に向かってやや太くなっている。スラっとした均整の取れた木地形態である。胴には薄くニスかラッカーが塗られているようでテカリ感があるが、そのお陰か退色は見られず、胴の黄色もはっきり残っていて、当時の華麗さが窺われる。胴上下と肩の山に引かれた濃い緑のロクロ線が全体を引き締めている。なお、胴底には鉛筆で「岡崎斎」の書き込みがある。「こけし美と系譜」(26)に掲載の初見と同手の作であり、昭和12年頃の作か。
千夜一夜(1)第473夜で紹介した初見こけし(右、昭和14年作)と並べてみた。右は大きさが3分ほど小さく、肩の山の盛り上がりが高いため、胴は短く、裾部での広がりも少ない。胴に黄色が塗られていたかは分からない。胴上下と肩の山の赤ロクロ線の本数が2本ずつに増えたが、その分、緑のロクロ線が細くなって迫力が薄れている。
次に両者の表情を比べてみよう。右のこけしを入手した際、その穏やかながら凛々しい表情に惹きつけられた。眉・目が左右に離れているため、おっとりした感じも受け、それも好ましかった。しかし、こうして並べて見ると、視線が定まらずやや虚ろな表情にも見える。そして、今回入手した左の初見。左右の鬢が大きく、やや内側に描かれているため、顔の面積が右に比べて狭くなっている。その分、前髪の横幅も短くなって引き締まっている。眉・目は顔の中央に寄って集中度が高まり、正面を見つめる強い表情になっている。眉や上瞼の描線も力強い。全体の木地形態、描彩、表情とも、2年ほどの違いでかなりの変化があることが分かった。今回のこけしの方が、初見らしさが際立っており、どちらかを選ぶとすれば、こちら(左)の初見ということになるだろう。
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