第307夜:妖しいこけし(大弘)
先日の工人フェスティバルで鳴子の松田大弘さんと話をした。大弘さんと会ったのは6月の友の会のこけし談話会以来2度目である。昨年から本格的にこけしを作り始めた大弘さんは若手工人らしく今風のこけしも作るようであるが、今回は伝統こけしで勝負したいということで、幸八系列の初見型、庸吉型、民之助型を並べていた。中でも、9月の全国こけし祭りで高位受賞した民之助型で「妖しさ」を追及しているのだと言う。鳴子こけしで「妖しさ」を表現するのは珍しく興味を持って作品を眺め1本を購入した。今夜はそのこけしを紹介したい。口絵写真はその表情である。
こちらが全国こけし祭りで受賞した民之助型で、大正期作と言われる民之助の古作を元にしたものであるが、それを忠実に写したものではなく、筆遣いはかなり自由である。民之助の古作の特徴は二側目であることで鳴子系では珍しい。その受賞の審査講評では「妖しさ」が魅力と書かれており、大弘さんはそれを更に追及することにしたのであろう。
その中から筆者が選んだのはこの1本。大きさは9寸5分でロー引きはしていない。反りの殆ど無い直胴で、上下に鉋溝を2本入れ、上部は赤ロクロ線の中に下部は赤ロクロ線の上に配している。胴模様は闊達で筆が躍るように描かれ、原こけしの面影は残っていない。そして、面描である。前髪、鬢を顔の上方に寄せ、眉目もそれに合わせて上寄りである。眉は太目で湾曲は無く、目は小さめで向かって左が下がっている。極小の眼点が上目使いの視線を送っている。他のこけしと比べてかなり意識的に描かれた表情と思われるが、今回はそこに惹かれて入手した。これはこれで十分に「妖しい」こけしだと思うが、究極の「妖しさ」はむしろ、眉目を普通の位置に描いた表情で出すべきものかも知れない。
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