第317夜:遂に巡り合った岩蔵!(偽出品にご注意を)
いつからか「鳴子の国恵」と言われるようになって、その内に本人もその気になって、鳴子のこけしには一段と力を入れて集める様になった。お陰で、鳴子系で古いこけし、珍しいこけしもコレクションの中に並ぶようになった。しかし、鳴子を代表する岩蔵のこけしには縁がなかった。岩蔵のこけしは古品にもかかわらず結構な数が出回っているが、国恵が欲しいと思うようなものには出会わなかった。そんな中で10月にヤフオクに出た岩蔵は何としても手に入れたいこけしであった。今夜はそんな想いで国恵志堂にやってきた岩蔵こけしを紹介したい。口絵写真はその岩蔵こけしの表情である。
鳴子系を代表する名工である大沼岩蔵は岩太郎の弟子で、明治時代からこけしを作っている。しかし、明治・大正期の岩蔵作と明言できるこけしは殆ど無く、昭和13年の復活以降の作が多く知られている。中でも、復活初期の13年のこけしは少なく、「古形子加々美」原色版の1本(1尺)と単色版の2本(7寸5分、8寸)、鹿間旧蔵の大名物で「こけし鑑賞」掲載の1本(尺1寸)、それに深沢要の「こけしの微笑」口絵写真の1本(これは一側目)くらいである。その特徴は、頭頂部の水引が簡素であり、目は一筆目で鼻は二筆、ウテラカシ等の飾りは無く、胴のロクロ線も赤のみ、模様に紫は使われていないことである。
さて、本項のこけしである。大きさは5寸7分。一筆目であることから昭和13年作という可能性が濃厚であった。大きさは既知の岩蔵13年作の中では一番小さく、そのためか胴上下にロクロ線は引かれておらず、肩口と裾に鉋溝が付けられている。「こけしの微笑」の岩蔵は胴上下に鉋溝と赤のロクロ線が引かれているが6~7寸位であろうか、それと角張った頭頂部、低い肩の山、細身で裾の広がった胴の形態など良く似ている。
こちらに頭頂部と胴底を示す。頭頂部の水引は赤3点でしかない。本岩蔵は保存状態が良く、緑が完璧に残っているほか、胴には黄色点もかすかに残っている。
この岩蔵が欲しかった理由には、あの岩太郎(?)と並べて見てみたいという想いが強くあった。だから、あの岩太郎がこの岩蔵を引き寄せたのだとも思う。多く言われてきたこけしの不思議な縁である。
さて、こうして並べて見るとどうであろうか。右はもちろん岩蔵であるが、左は岩蔵の明治期の旧作なのか、師の岩太郎なのか、はたまた別の大沼系の工人なのか…。見る人の判断で決めて貰えば良いだろう。
<ご注意!>
ところで、この岩蔵が届いてから数日して、ヤフオクにまた同じ写真で岩蔵の出品があった。一瞬目を疑ったが、もう一本同じものがあったのかも知れないと思った。しかしよく見ると出品者は異なり、最低価は15万円で翌日の締め切りであった。最低価が高かったためか誰も応札せずにその出品は終了した。ところがまた1日おいて、やはり同じ写真での岩蔵の出品があった。出品者はまた別人で評価0の初出品。今度は最低価10万円でやはり翌日の締め切りであった。こちらも誰も応札せずに終了した。これらは明らかな偽出品であるが、最低価が低かったら気付かずに応札した人も居たのではないだろうか。こけしの世界にもこのような詐欺が出てくるようになったようだ。くれぐれもご注意を…!
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後年の技巧を凝らした岩蔵と違い、古鳴子を彷彿とさせる名品ですね。
投稿: 益子 高 | 2018年12月 5日 (水) 20時12分
益子 高様
こけしは元々シンプルな人形ですからねぇ!
あまり技巧を使わずに作られたものの方が見る者の心を捕えるようですね…
投稿: 国恵 | 2018年12月 6日 (木) 10時20分