第337夜:松三郎の初期こけし
インターネットなど未だ無かった昭和の時代、古品というと飴色になった如何にも骨董品的なこけしがその代表であった。それらは民芸品店や古い収集家の間でやりとりされていたもので、偶に入札会があっても価格は高く、容易に近づけるものではなかった。そんなことから、古品は自分たちには無縁のものとして蒐集活動を続けていた。時は変り、今ではインターネットのオークションにも古品が頻繁に出品され価格も物によっては随分と安くなっている。また、古品であっても飴色ではなく、今作られたばかりのように保存状態の良いものも見掛けられる。勿論そういうものは相応の価格になってしまうが…。そうした作品を見てみると飴色神話は脆くも崩れ去り、往時の色彩を残した作品が発する迫力に心を奪われてしまう。先日ヤフオクで入手した松三郎のこけしもそのようなものの一本である。口絵写真はその表情である。
こちらが、その松三郎のこけしである。大きさは6寸1分。鳴子の伊藤松三郎は高橋万五郎について木地を修業した木地師であるが、自身のこけしを作ったのは昭和13年が最初であるという。その当初のこけしはkokeshi wikiの松三郎の項に「深沢コレクション」の作が載っている。飴色の典型的な古品であるため木地形態と面描は分かるものの、胴模様等は赤色を除いて殆ど退色している。本こけしはそれと同時期の作。深沢コレクションでは分からなくなってしまった点を十分に補うことが出来る。丸頭に細身の胴で反りは殆ど無い。肩の山は大きく、緑と赤のロクロ線は肩上面から少し離れて引かれている。胴上下のロクロ線は赤と緑で、胴下部には鉋溝が一本入っている。胴には黄色が薄く塗られている。胴模様は上に横菊、下に正面菊の様式で各花弁は整っておらず手慣れていない素朴さが味わい深い。前髪は頭の上方に描かれ横に広い。前髪の両下端から描かれる三筆の鬢も上寄りで眉目の位置も高いため下膨れ感がある。本こけしでは、眉の湾曲が大きく筆致にも勢いがあり、眼点もやや大きめであるが表情に張りがある。松三郎のこけしは優しくおとなしい表情のものが多いが、本こけしには力強さが感じられる。初期作の良さが現れたこけしで、初期松三郎の代表作と言って良いだろう。
松三郎のこけしは昭和15年には、鴻頒布として蒐集家に流布されるのだが、それと並べてみた。左が鴻頒布の8寸。胴の形態・胴模様に大きな変化はないが、面描では、前髪の幅が狭くなって下がり、それにつれて鬢、眉目の位置も下になった。眉・目の描線は湾曲が少なくなり、控えめでおとなしい表情に変ってきている。
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