第336夜:待望の誓がやってきた!
大沼誓のこけしは鳴子系の中でも国恵が最も好きなこけしの一つで、大正期のものから戦後の作まで各時期の作品を機会がある毎に集めてきた。しかし、復活初期の作で前髪と鬢が繋がったオカッパのように見えるこけしはなかなか良い物に出会わないまま時が過ぎていた。先日、ようやくその逸品を譲って貰う事ができたので紹介したい。口絵写真はその表情である。
こちらがそのこけしである。大きさは9寸8分。もとは都築コレクションの所蔵品である。やや太目で反りの少ない直線的な胴、肩の山はこんもりと大きく盛り上がり、そこに赤の太いロクロ線が3本大胆に引かれている。胴には薄く黄色が塗られ下部には鉋溝が1本、胴上下の太い赤ロクロ線は肩の赤ロクロ線と呼応するかのように締まっている。胴模様は下部に正面菊を斜めに伸ばしたものを左右に2個並べ、上部中央に描かれた横菊は一番外側の花弁が大きく伸びて左右に垂れて緑の添え葉を覆い、実に雄大の構図である。頭はやや縦に長めの蕪形で前髪が頭の三分の一を占めるほどに大きく、両脇が鬢上部に繋がってオカッパ頭のように見える。眉は鋭角的で筆致強く、目尻が上がった瞳は中央に寄って力強い。堂々たる風格と古風な趣を持ったこけしである。数ある誓の戦前のこけしの中でもトップクラスの作品と言えるだろう。
こちらに同型のこけしと並べて見た。左の作は頭はやや横に広くなり、胴上部はやや細くなって反りが付いたようである。肩の山のロクロ線は4本になり、その分太さはやや細くなって右ほどの迫力は薄くなった。右よりはスマートになっておりやや後の作であろうか。ここでは保存状態の違いを見て頂きたい。やはり受ける印象は大分異なる。
次に顔の表情を比べてみた。前髪と鬢が繋がった同様の面描ではあるが、左では筆致がやや弱くなり、目力が減っておっとりとした優しい表情になっている。
第141夜で紹介した誓こけし(左:8寸4分)と並べてみた。鋭角的な顔の表情はほぼ一緒であるが、こちらは前髪が小さくなって鬢と離れ、また鬢も短く上方に描かれているため、下膨れ感が強く、右とは異なった印象を受ける。右が母親で左が娘、または姉(右)と妹(左)のように感じられる。
この2本での前髪の形の違いを見てみよう。はっきり意識して描法を変えているのが分かるであろう。
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