第347夜:周辺のこけし(大滝武寛)
「木の花」の第21号から29号までに「雑系こけしの魅力」として、それに該当する工人とこけしが紹介されているが、それらは白畑重治、柏倉勝郎、阿部常松と常吉、伊豆定雄、小椋千代五郎、磯谷直行、樋渡治一であり、いずれも今ではメジャーな工人として知られている。昨夜の海谷周松にしても今夜紹介する大滝武寛にしても、それらの工人に比べれば活動期間も短く残るこけしも少なく本格的な工人とは言えないかも知れない。今回、ヤフオクを介して出品されたコレクターは戦前にそのような工人に目を向けて収集されたということであり、その眼力の鋭さには敬意を表したい。最初は「木の花」に合わせて「雑系」としてみたが、何となくそぐわないので、各系統の本流から外れたところで作られているという意味で「周辺のこけし」としてみた。口絵写真は武寛(大)の表情である。
Kokeshi wikiによれば、大滝武寛は「山形県鶴岡市七日町の玩具作者で、明治15年の生まれ。鶴岡の物産問屋丸金商店の勧めにより、鳴子からこけしの木地を取り寄せて、それに描彩を施し、新作こけしとして販売した。」と紹介されている。橘文策著「こけしざんまい」でも、玩具製作者として記載されており、木地は挽かず、出来合いの木地に家族で描彩を行っていたものと思われる。木地は鳴子の「高亀」から求め、胴下部を水色のロクロ線でぼかす等、特注したものと思われる。その関係から、描彩も鳴子こけしを参考にしたと思われるが、武寛自身の工夫によるものか、独自のこけしに仕上がっており、「こけしざんまい」でも「新作こけし」として紹介されている。
こちらが今回のこけしである。大きさは大(左)が5寸2分、小(右)は4寸。木地形態は鳴子のたちこ型で胴の括れは無く、胴裾が微かに広がっている。肩の張りは強く、その部分に赤いロクロ線を引いている。胴下部は淡い緑色(水色)と赤のロクロ線を合わせたもので、上部の水色はぼかしてグラデーションのようになっている。胴模様は楓を大きく一葉描いているが、楓の葉の切れ込み数が多い。
次に表情を見てみよう。大では前髪を縦長に大きく顔の半ば近くまで描き、鬢は頭頂近くから前髪の横を覆うように大きく描いている。そのため、面描は下方に集中してこじんまりと纏まっている。下目で何とも愛らしい表情である。一方、小は前髪の位置が高く、鬢は前髪の下端から大きく垂れている。前髪が上がった分、顔の面積は広くなり前髪、眉、目の間隔が広がって溌溂とした明るい表情になっている。このように大小で面描を描き分けているため、2本を並べてみると、母と娘、姉と妹のように見えて面白い。
最後に頭頂部を見てみよう。中央部を赤で丸く塗り(大は白抜き)、その周りに赤で複雑な模様を描いている。このような描法は他のこけしでは見られず興味深い。
署名は胴裏に大きく「出羽鶴岡住 大滝武寛作」と書かれている。
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