第357夜:秀顯さんの竹雄写し(これより令和)
平成の世が終わり、今日から「令和」の時代が始まった。日が変わった時には雨が降っていたが、午前9時の現在、ここ横浜では天気予報に反して改元を祝うように太陽が顔を出している。さて平成最後のこけしとして大沼秀顯さんのこけしを紹介しよう。秀顯さんの祖父大沼竹雄のこけしは戦前の昭和10年代前半頃には鳴子の街中では数多く見られたこけしだと言う。しかし、そのこけしが現在ヤフオクを初め中古市場でも目にすることは驚くほど少ない。第一次こけしブームのピークといわれる昭和15年の初めには亡くなってしまったことが大きな原因かも知れない。国恵はそんな竹雄のこけしが好きであり出来るだけ入手すべく努めてきた。今回のこけしは楷書体時代の昭和13年頃の作と思われるが嬉しいことに前面の色彩が良く残っている。このこけしを秀顯さんに預けて写しの制作をお願いしたのは2年程前になる。ようやく出来上がって送られてきたので紹介しようと思う。口絵写真は、その竹雄写しの表情である。
こちらが今回のこけし。大きさは8寸。「原」こけし(中)は昭和13年頃と思われる竹雄のこけし(第175夜参照)。小振りの丸頭に胴は反りの殆ど無い直胴で古風な趣をもったこけしである。横菊と正面菊を組み合わせた胴模様は、車菊が有名な竹雄こけしでは珍しい。やや左下に視線を向けた表情はちょっとはにかんだ早乙女を思わせ好ましい。右と左が秀顯さんの写しである。木地形態・胴模様は見事に「原」を写してくれた。「原」は胴に薄く黄色が塗られているような気もするが、今回の写しは白胴で作られている。
今回の写しの見所の一つ、表情を見てみよう。「原」の表情はよく見かける竹雄のきちっとした表情とは少し違っている。それは上瞼と眼点の位置関係にあるのであろう。上瞼は向かって左からやや右上がりに筆を引き、眼点は両目とも上瞼の左寄りに入れている。そのために左下向きに視線を向けた表情になっている。秀顯さんも表情がいつも描いている竹雄型とはちょっと違っているので、それを意識して描いたと話していた。写真左のこけしの表情はこれまでと殆ど変わらないと思われるもの、右は「原」の表情を意識したと思われるもので、その気持ちからか向かって右目がやや上に上がっている。意識したとは言え、その視線は左ではなく正面を向いていて竹雄の表情とは雰囲気が異なる。ちょっとした違いで表情には差が出てくるもの。そこがまた手作りの面白さでもある。
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