第362夜:二側目の鳴子こけし(斉司)
6月に入っても暑い日が続いていたが、関東地方は昨日梅雨入りの宣言があり、一転して肌寒い天候となった。さて、今夜紹介するのは楽語舎で見つけた鳴子のこけしである。ちょっと不思議な感じのするこけしだったので入手した。描彩(特に頭部)の特徴から岡崎系のこけしと思ったが、胴底には鉛筆で「鳴子 岡崎斉司」と書かれている。本人の署名ではなく入手者が記入したものであろう。岡崎斉司のこけしは変化が少なく、特に戦後の作は安定していてよく見かけるもので、それらと比べると斉司としても戦前の作ではないかと思われる。口絵写真はその表情である。
こちらが全体像である。大きさは7寸。頭は縦に長く、胴は細身で反りは大きい。胴のロクロ線は赤のみで、肩の上面にも赤が塗られている。このような描彩様式は戦前の鳴子こけしによく見られるものである。胴模様は楓を2葉、縦に並べ、胴裾には赤で波形の土玻を描いている。
さて、このこけしが一見異様に見えるのは、目が二側目であるためであろう。鳴子こけし(特に戦後)の目は大半が一側目であり、高勘系の一部を除いて二側目は見られない。しかし、戦前のこけしには高勘系以外でも二側目のこけしが散見される。しかし、斉司の父で師匠の斎のこけしで二側目のものは見た事が無い。従って、岡崎家の伝統という訳でもないのであろう。上瞼は長く、下に凸の下瞼は短い。その両瞼の間に横長の細い眼点を入れている。左目の眼点が外側に寄っているので、正面から見ると左を向いている様に見える。眉も含めて描線は細く、表情に力強さは感じられない。「愛玩鼓楽」に載っている初期(昭和15年頃)の作は眼点が大きいが力強く、また深沢コレクションにある16年作も一側目であるが表情は鋭い。また、楓の模様も鋭角的で立っている。それらと比べると、本作は戦前でも10年代後半から20年代初めの頃のものかも知れない。
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