第375夜:再会した小関幸雄のこけし(戦前)
暑かったお盆も終わり、今日は風も北向きに変ってやや過ごし易い一日であった。先月末、ヤフオクに1本のこけしが出ていた。小関幸雄の戦前・竹井時代のこけしである。小関の戦前のこけしはその素朴さが気に入って注目していたが、3万円という最低価のせいか応札無しで終わっていた。国恵志堂には同種のこけしとして「こけし作者」掲載の橘旧蔵品があるのでそのままスルーした。ヤフオクのこけしは再出品となり、最低価は変らずに出て来た。気にはなっていたのでじっくりと見ていると、堂底に鼓堂印が押されてあり、それが鼓堂旧蔵品で有ることが分かった。鼓堂旧蔵の小関こけしは国恵志堂にも1本あったので、取り出してきて「愛玩鼓楽」の小関こけしを探してみると、何と手元にある小関こけしの横に写っているのが、今回出品されているこけしであった。それが分かると急に手元で並べて見たくなり、応札した。結局、他に応札者はなく出品価で落札した。「愛玩鼓楽」が発行された昭和60年には一緒にあったものが、その後鼓堂コレクションを離れてこけし界に出て行き、再び国恵志堂で再会したのである。今夜は、そのこけしを紹介したい。口絵写真はその表情である。
こちらが今回入手したこけしである。大きさは8寸。鼓堂旧蔵品(NO.240)で昭和14年9月の記載がある。昭和12年から3年間弥治郎に通って修業し、竹井に戻って本格的に木地業を始めて間もない頃の作品ということになる。角ばった縦長の頭に描かれた面描は、眉・目・鼻・口とも細筆で小さく描かれており、特に鼻と口は今にも消え入りそうである。何とも素朴で可憐な表情である。
もう1本の鼓堂旧蔵こけし(左、NO.241、第1000夜参照)と並べてみた。「愛玩鼓楽」に並んで写真掲載されている2本である。
胴底の書き込みと鼓堂シールである。
同時期の作と言われる橘旧蔵品(右、第941夜参照)と並べてみた。橘旧蔵品は「山形のこけし」の解説から昭和14年4月から8月頃の作と推定した(第941夜)。従って、本項の小関こけし(鼓堂旧蔵)は橘旧蔵品の直ぐ後の作とみられる。同時期に作ったものであれば木地形態・描彩ともに殆ど同じに作られたと考えられるが、この2本を比べてみると細部には違いも見られる。木地形態では橘旧蔵の方が頭頂部が尖って挽かれているが、これは未だ慣れていないための木地のバラツキと考えても良いだろう。胴模様では、鼓堂旧蔵では赤のロクロ線の間隔が広がり、中央の紫の波線の上下に紫の細いロクロ線が追加されている。面描の素朴で可憐な雰囲気はほぼ同じ。
一番の違いは前髪とその周りの描彩である。橘旧蔵(右)では前髪と鬢上部はやや離れており、前髪の横から赤い飾りが4筆横に並んでいる。一方、鼓堂旧蔵(左)では前髪は鬢の上部まで長く描かれており、前髪に重なるように赤い飾りが酸3筆横に並んでいる。そして、鬢の上部には緑の飾りが付けられ、その後ろに赤い飾りが2筆加えられているのである。橘旧蔵よりは明らかに凝った様式になっており、「描彩は後になるほど複雑になる」という事例が多いことからも、鼓堂作の方が後の作ということを裏付ける。なお、この緑の鬢飾りはNO.241の鼓堂作にも付いている。
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