第388夜:秀則さんの大正期誓写し
昨年の6月、東京こけし友の会の「こけし談話会」が鳴子温泉で開かれた。その折、持参した大正時代の誓こけし(大小2本)を大沼秀則さんに預け、写しの作成をお願いした。その試作品は昨年8月頃に出来上がり、12月末に鳴子を訪れた時に入手し(第325夜参照)、再度の改善をお願いしていた。この10月の友の会旅行が決まってから秀則さんに連絡したところ作っておくとの返事を頂いた。こういうものは機を逸するとなかなか出来ないことは常々体験しているので、心して鳴子に向かったのである。さて、今夜は、その誓写しのこけしを紹介したい。口絵写真はその表情である。
先ずは2本の内、大きい方から見て頂こう。大きさは8寸3分である。秀則さんが普段作る誓型とは趣が異なるこけしに仕上がっている。
それでは「原」(右から2番目)と比べて解説しよう。左から①、②、③、原、④とする。①は昨年12月の第1作。「原」の基本点はしっかり押さえて作られているが、頭の形が丸く、表情も普段作っている可愛い秀則こけしの面影が残っている。残り3本は今回の作であるが若干の違いも見られる。②では頭の形は「原」に習って角張った形となった。しかし、顔は目がやや下で①に近く、可愛いこけしの名残が強い。そして真ん中の③。眉・目の位置が上がり、眼点も小さくなって「原」を彷彿させる雅なこけしに変貌した。これなら表情は十分に合格である。④は鬢を3筆描きにして貰ったもの(大正期の誓には3筆のものもある)。目の表情は②と③の中間位か。しかし合格点はあげて良いだろう。このように、③.④では「原」と比べて遜色ない出来上がりになっているが、前回から変わってしまった点もある。肩の山のロクロ線の太さと胴上部の鉋溝の太さである。肩の山の赤ロクロ線は、「原」では上と下は太く、その間にやや太い線を2本入れて重厚感を醸し出しているのだが、この間の2本の赤ロクロ線が、③と④のこけしでは細くなってしまったのである。ここは①、②のように太目に引いて欲しかったと思う。また、鉋溝。これも①、②は深く削って中を赤で塗っているのだが、③と④では細くなってしまった。④ではその鉋溝の下の赤ロクロ線が逆にかなり太くなってしまっている。色々と作っている内に変化してしまったのであろう。まあ、この辺の違いは、細かいことにあまり拘らない秀則さんらしいと言えるのかも知れない。
細かい点の一つで、今回改善して貰ったのが、頭頂部の水引。「原」では3筆ずつ離して4つに分けて描いている。左が昨年作で右が今回作。多少は意識して描いてくれたものと思う。
次に小さい方のこけし。大きさは6寸である。
こちらも、「原」と比べて見てみよう。左から①、②、原、③とする。①が昨年作で、②、③が今回作。こちらについては8寸3分ほどには煮詰められていないようだ。①と比べると②、③では頭の形がやや縦長となり、眉・目の位置が上がって眼点も小さくなった。しかし、表情も8寸3分ほどには「原」に肉薄していない。胴模様に至っては、①の方が「原」に忠実である。秀則さんも8寸3分の方に気を使い過ぎて、力尽きてしまったか! 「原」を写すのもなかなか難しいものである。
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