第390夜:寅蔵と正吾さん
友の会旅行の帰りに鳴子に寄ったのは、正吾さんに高橋寅蔵の写しを作って貰うことも大きな理由であった。正吾さんが寅蔵の写しを作っているのを知ったのは昨年の4月に鳴子を訪ねた時であり、その時に出来ていた寅蔵写しを2本入手した。雄四郎と同じく寅蔵の残るこけしも稀品であり、これまでに入手できる機会がなかった訳ではないが、金額的に折り合いが付かなかった。そんな寅蔵のこけしがふとしたことから国恵志堂のコレクションに加わったのは最近のこと。正吾さんにその写しを作って貰うことが現実になったのである。さて、今夜はその寅蔵のこけしを紹介したいと思う。口絵写真は、その寅蔵こけしの表情である。
寅蔵のこけしが数が少ないことから、そのこけしは文献等で紹介されていることが多い。今回のこけしも、「こけし古作図譜」に253番として掲載されている。そこでは名和氏の所蔵となっている。
こちらが、寅蔵こけしの胴底の書き込みである。「名和」という名前と「昭和18年頃の作」。また「昭和28.9.7入手 76才の作」という二種類の記載である。昭和18年に作られたものを名和氏が入手し、その後、昭和28年に別のコレクターが入手したということか…。
なお、寅蔵の署名は胴裏下部に年齢と一緒に書かれている。
さて、こちらが寅蔵こけしの全体像である。大きさは8寸3分。胴上下に1本ずつ鉋溝が入るが肩の山は白木地のままである。頭は大きな蕪形で迫力のある木地形態である。「こけし古作図譜 解説」では木地は岩蔵かとも書かれているが、櫻井家の工人のような気もする。胴模様は寅蔵こけしでは良く見かける横菊と正面菊の組み合わせ。描き殴ったような草書体の筆致が素晴らしい。斜めに描かれた正面菊も他の工人では見かけない珍しい描法である。多くの茎・葉を一面に散らした様式は寅蔵が属する金太郎(万五郎)系列の特徴である。
そして表情。寅蔵の表情というと目尻・眉尻が上がったきつい表情が多いのであるが、本作では向かって右の眉目は上がっているが、左の眉目は逆に下がっており、また目自体が眼点も含めて小さいために、気品と味わいを持った表情になっている。
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