第391夜:寅蔵と正吾さん(2)
11月2日、正吾さんから荷物が届いた。友の会旅行の帰途、鳴子に寄って寅蔵の写しをお願いしたのは10月7日のこと。それから一か月も経たない内に作ってくれたことになる。自身が日頃作っているこけしならいざ知らず、写しは木地形態から描彩まで1から作り上げることになる。しかも正吾さんは来月、卒寿(90歳)を迎えるのである。いつもいつも面倒なお願いをしているのに、快く作って頂ける正吾さんには、只々感謝あるのみである。正吾さんの古作の型を残そうという気持ちは強く、最近では儀一郎や武寛の写し迄、その製作範囲は鳴子本流の周辺にまで広がっている。さて、今夜は昨夜紹介した寅蔵の写しである。口絵写真はその上から見た表情である。
こちらが正吾さんから送られてきた寅蔵写し。写しを頼んだ折、寅蔵の「原」は頭が大きいので、それに見合った材料が無い場合は頭が小さくなる可能性もある言われたが、出来上がった写しは「原」同様の大きな頭になっていて安堵した。
今回作って貰った5本を「原」と一緒に並べてみた。1本だけでは分からないが、こうして並べてみるとそれぞれに違いがあることが分かり、それがまた見所となって面白い。
真ん中の3本を取り出してみた。向かって左は一番上の写真に載せたもので、描彩が「原」に一番近いと思われるものである。特に胴模様を見て頂きたい。横菊と正面菊の大きさと位置、特に正面菊は大きさとその独特の形が「原」にほぼ忠実に描かれている。一方、右の写しでは、横菊、正面菊とも大きくなり、形も闊達に変わってきているのが分かる。写しを作る場合、最初の1本は「原」をよく見て筆の入れ方なども忠実に作るのであろうが、次第に普段の筆使いになってくるのであろう。その分、筆には勢いが出て闊達な描彩になると思われる。
この3本の表情を比べてみよう。前髪、水引、鬢に面描と、寅蔵の筆致を上手く再現している。但し、正吾さんは目が不自由になりつつあるため、特に眉・目の描彩では最初の筆の置き場所によって表情に違いが出てくる。左の写しでは「原」に近い筆使いで温和な表情になっているが、右の写しでは眉・目の位置がやや上がり、眼点のアクセントが強くなって、右上方に視線を向けた元気な表情になっている。
こちらは署名である。「原」の署名が胴裏下部に書かれているので、正吾さんはそこまで忠実に写して呉れている。
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