第395夜:またまた希三…
先日、ヤフオクに「鳴子系不明こけし」が出品されていた。一見した感じでは岡崎家(斎、斉司)のこけしかとも思われたが、描彩の細部を比較して、希三のこけしではと目星を付けた。署名などは無いが、胴底には「参考品」という鉛筆書きと「陸奥売店」の紫ゴム印が押されている。戦前作と思われるが、表情は所蔵の希三とは趣がやや異なる。そうなると、どうしても手元で確認したく入札に参加して、何とか入手することが出来た。今夜はそのこけしを紹介したいと思う、口絵写真はその表情である。
こちらが、そのこけしである。大きさは7寸7分。やや角張った頭に、反りのある胴を付け、肩の山は低く赤と緑のロクロ線が引かれている。黄胴に菱菊を描いているが保存状態は良く色彩は鮮明である。菱菊上部の横菊は左右の花弁が長く垂れ下がっている。面描はきっちりと描かれており端正な表情である。ここで一番気になるのは、長過ぎると思われるほどに延びた横菊の花弁である。ところで、国恵志堂にはこのように花弁が延びたこけしがあった。それは「昭和24.1.1 後藤希三」と底書きのあるこけしである。
3本の希三こけしを並べてみた。左が昭和24年の希三、真ん中が本品、右は昭和16年の希三である。本品と右を比べると、面描は頭部の描彩も含めてほぼ同じ、ただ、眉・目の筆致が右は大らかであるが本品では目が中央に寄って固い表情になっている。胴模様では横菊の様式は同じであるが、外側の花弁の垂れ下がりが大きく異なっている。どうしてこのようになってしまったのだろうか…。希三は昭和16年から22年まで応召されて戦地に行っている。従がって、本品も16年の作と思われる。右作も16年であり、1年内の変化としては大きなものである。左作は戦地から戻ってからのもので、応召前の胴模様がそのまま描かれたものと思われる。しかし表情は眉の湾曲が大きくなり、瞳も大きくなって愛らしいものとなっている。当時の鳴子こけしの風潮が感じられる。なお、16年以前の希三こけしは、第900夜を参照されたい。
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