第401夜:大弘さんの庸吉写し
鳴子系のこけしには特に力を入れている国恵志堂の中でも鈴木庸吉のこけしは別格である。庸吉のこけしは残存数が少なく、入手難のこけしの一つである。これまで、石原日出男、小島長治郎、岸正規、菅原和平の各工人等により庸吉こけしの復元がなされており、特に岸正規さんは庸吉型に心血を注いで庸吉に肉薄する作品を残している。しかし、岸さんは庸吉とは別系列(金太郎系列)であってやはり限界はあったであろう。幸八系列の直系である松田忠雄さんの息子の大弘さんは平成生れのニューフェイス。こけし作りを始めてから未だ3年程であるが、一作毎に腕上げ瑞々しいこけしを作っている。国恵所蔵の庸吉を持って鳴子に向かい、その写しを大弘さんに頼んだのは新緑が眩しい今年5月のこと。紅葉の賑わいも一段落した11月、大弘さんからこけしが届いたので紹介しよう。口絵写真は、斜め上から見た庸吉写しの表情である。
国恵志堂では、写しを頼む場合、「原」が尺以上のものは原寸と7寸程に縮小したものをお願いしている。今回も原寸(尺:左)と7寸(右)の2種類を作って貰った。
改めて、原寸写しで作品を見てみよう。先ず、大きな頭にすらっとした細めの胴の木地形態。これは見事に再現されており木地技術の確かさが窺い知れる。胴の菊模様もぼってりと花弁の傾き迄、しっかりと描かれている。良い出来である。
さて、庸吉こけしと言えばその表情が一番の見所であるが、それはどうであろうか。国恵の注目点は、先ず他の庸吉こけしには見られない赤3点の鬢飾り。そして目の表現。全体的な表情の雰囲気は素晴らしい。庸吉のあどけない可憐な趣を余すところなく再現している。そして、眼点の入れ方。原こけしでは右目(向かって左)は真下に、左目は横に筆を入れているのである。そのことが本こけしの絶妙な表情を醸し出しているのだが、大弘さんもそれには気付いていて、そのように描いてくれている。この庸吉の眼点の描法はたまたまそうなったということも考えられるが、どうも意図的なのではないかということで大弘さんと見解が一致した。また、大弘さんは前髪の後の三つ髪や水引が左右対称ではないアンバランスさも面白いと話していた。
こちらは、西田コレクションの庸吉こけしであるが、左こけしでは両目とも眼点が下を向いているが、右こけしでは左目の眼点が横になっており、本作と同様な描き方なのである。眼点が両方とも下向きだと元気な表情になるが、片方を横向きにすることでそこに可憐さが加わるのである。庸吉こけしの大きな魅力のひとつであろう。
この大弘さんの力量に期待して、この原を元にして、様々な胴模様の7寸こけしを作って貰った。左端は原の忠実な写し。右5本はその応用品。赤い鬢飾りや眼点の特徴を生かし、あとは大弘さんの自由な発想で作って貰ったものである。表情は原を簡素化して愛らしく、胴模様は伝統的な花模様を筆の向くままに描いている。多くの胴模様を残した定助を連想させる。昨今、伝統こけしらしからぬ作品が目に付く中、このように伝統から外れない形で新しい伝統こけしが生まれる事は素晴らしく、今後が大いに期待される。
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鳴子こけしまつり横浜展(2020)のはがきにもこれと同じで柄違いがありますね。
このこけしは何かな?と思っていました。
細身のボディに存在感がありますね。
投稿: NT | 2019年12月21日 (土) 00時29分
NT様
昨日は鳴子で大弘さんにも会ってきました。
鳴子こけしまつり横浜展の案内葉書に載っているこけしは、本稿の5本と一緒に作ったものです。
庸吉の細身の胴と洒脱な花模様、平頭に瑞々しい表情が魅力ですね。
大弘さんは色々と応用品を作ってくれるので楽しいです。
投稿: 国恵 | 2019年12月21日 (土) 09時08分