第407夜:「紫誓」がやってきた…
正月気分が残る成人の日の連休も終わり、14日はこけし関係の用事で都内を回ってきた。昨年末に鳴子を訪れた際、大沼秀則さんと誓こけしについて話す機会があった。力さんの誓型には紫の花を描いたものがあるが、そのことについては聞きぞびれてしまい、どういう経緯で紫花の誓型を描いたのかは分からないと秀則さんは言っており、紫花を描いた誓のこけしも見た事はないという。国恵(筆者)も最初に入手した力さんの誓型が紫花だったので、それの原になる紫花の誓こけしがあるのだろうと漠然とは思っていたが実際に見た事はなかった。そんな話をしてから一週間ばかりして届いたひやねの「往来」入札に何と紫花の描かれた誓こけしが載っていたのには又しても「こけしの縁」かと驚いた。しかも、今月末の鳴子こけし祭り(横浜人形の家)には久し振りに秀則さんがやってくることになっている。これはもう、どうしても入手しなくてはと思い入札に参加、国恵志堂コレクションに加えることが出来た。今夜はその誓こけしを紹介しよう。口絵写真は、その誓こけしの表情である。
こちらが、その「紫誓」である。大きさは1尺。上から消してあるが「久松」の押印があり、久松旧蔵品であるらしい。胴底には鉛筆で「昭15の特徴有」と書かれている。細身の胴で肩の山は高く盛り上がり、丸い頭はそれ程大きく無く、スマートなこけしである。胴模様は、誓が得意とした三方菊(3つの正面菊を上と左右の三方に配した菊模様)の変形で、その内の上部の菊花が紫色で描かれている。大沼誓は大正期からこけしを作っているが、その後こけし作りから離れ、復活は昭和15年と言われている。復活当初の誓こけしは頭がやや角張っており、眉と上瞼は鋭角的で三角形の目が中央に寄ったキツメの表情の特徴である。本項のこけしは、眉と上瞼の湾曲が鋭角的でなく丸みを帯びて優しい表情になっており、復活から暫く経った昭和10年代の後半の作と思われる。大沼岩蔵のこけしも後期(昭和10年代後半)には紫花を使ったものが見られ、戦争で世の中が暗くなって行く中で、こけしの胴模様は華やかになってなっていったのは胸に滲みる。
さて、こちらは力さんの誓型2種。右は有名な西田コレクションの誓こけし(昭和15年)を「原」とするもの。左は本項の誓こけしのようなやや後の誓こけしを「原」にしたものである。胴には同じ三方菊を描いているが、紫花が描かれるのは左手の型だけのようである。力こけしでは紫花が向かって右下のものになっているので、この様な誓こけしが有り、それを写したものと思われる。なお、左のこけしでは胴上下の細いロクロ線も紫になっている。
誓の紫花こけしと力の紫花こけしを並べてみた。誓こけしでは茎葉も含めて胴模様が密に描かれているが、力こけしでは菊花と茎葉の間隔を空けてバランス良く配置している。
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