第413夜:迫力の伊之助こけし
最近では古品こけしはヤフオクに出ることが多く、どんなものが出てくるかは楽しみである。しかし古品は価格も相応のものであり、入手には十分な吟味も必要となってくる。さて、肘折系の斎藤伊之助のこけしは多くは残っていないようだ。国恵志堂もなかなか入手する機会に恵まれなかったが、3年程前にようやく手にすることが出来、それ1本で十分満足していた。ところが、1月末に締め切りを迎えたヤフオクに保存状態のとても良い伊之助が出ていた。その伊之助は手持ちの伊之助と比べて眉・目に迫力があり、思わず惹き込まれてしまった。久し振りに何としても欲しいという欲求に駆られ、当然のように値が上がる中、費用の算段をして何とか入手することが出来た。今夜はそのこけしを以前からある伊之助と並べて紹介したい。口絵写真は、その表情である。
こちらが、その伊之助こけしである。大きさは尺。木地に焼けや古色は無く、色彩にも退色は無い。胴は白木地のままのようだが薄く黄色が塗られているようにも見え、そこに赤と緑で大きな4段の重ね菊が、今描いたかと思われるほどの鮮明さで描かれている。古品というと骨董色が付いたものが風格もあって評価されているのだが、こうした保存の良い作を見るとそれに敵うものは無い。
3年程前に入手した伊之助(左)と並べてみた。今回の伊之助も殆ど同手のこけしだと思っていたが、こうして並べて見ると細部には違いも見られる。先ずは全体の形だが、左は細身でスラッとした感じだが、右では頭・胴ともやや太目になっている。胴模様は同じ重ね菊であるが、各花の花弁の数は、左の方が多いようだ。また花芯に描かれた緑点も左の方が多い。
次に顔(面描)の比較である。頭の大きさは右の方が一回り程大きいようだ。今回のこけし(右)では、顔の面積が広く、そこ一杯に眉・目・鼻・口を描いており、顔の各パーツが左こけしより大きめである。特に眉と目は筆力が強く、描線の中ほどで力を入れて描いているためにアクセントが付いている。左目では眼点は上瞼からはみ出るくらいに描かれており上目使いの視線になっている。気品の左、迫力の右と言えようか…。
頭部の手絡線と鬢飾りも見てみよう。左には鬢の後に耳が描かれているが、右では描かれていない。また、頭頂部の手絡線も左は5本であるのに対して右では4本になっている。全体的な感じでは、左の方がより古風な描彩になっていると言えそうだ。戦前の復活(昭和15年)当初は左のようなこけしを描いていたが、次第に筆使いにも慣れてきて力が加わるとともに、耳や手絡、胴模様の花弁数などに省略が生まれてきたのかも知れない。当初1本で良いと思っていた伊之助こけしであるが、こうして並べてみるとそれぞれに良さがあり、やはり2本とも残して置きたいと思うようになった。
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