第415夜:昭二の岩蔵型の軌跡
戦後の鳴子こけしで桜井昭二は岩蔵型の第一人者である。しかし、昭二の岩蔵型への取り組みについては、文献などでは昭和25、6年頃より始めたとあるものの、その当初のこけしについての紹介は見当たらない。国恵(筆者)も昭和33年作までは現物で遡れたが、それ以前のものは分からないでいた。今月初め、ヤフオクに昭二の岩蔵型らしきものが出品され、他に誰も応札する者が無く、出品価で入手することができた。送られてきたこけしを見て、初期の岩蔵型と思われるので紹介したい。口絵写真はその表情である。
こちらが、そのこけしである。大きさは6寸1分。「桜井昭二作」という署名以外に製作年月などの記載は無い。全体的な雰囲気は岩蔵型を思わせるが、所謂岩蔵型として我々が思い浮かべる特徴とは異なる点が多々見受けられる。先ず、木地形態。特に頭の形が岩蔵特有の蕪形にはなっていない。昭和20年代後半の昭二は万之丞型のこけしを多く作っており、それは横長の頭なのであるが、本品では縦長の形になっており万之丞型ではない。ただ岩蔵の蕪頭では頬から下は窄まる形であるが、本作では逆に膨らんでいるようだ。次に目に付くのが胴下部のロクロ線。太い赤線を2本引くのは万之丞型に多く見られる。次に面描について見てみよう。前髪は下部の髪先の内2本が長く伸びている。また鬢の下部が内側に曲がっている。そして鬢飾りの赤点が2個。これらは万之氶型に見られる特徴であり、こうして見ると、このこけしは昭二が岩蔵型を目指して作った過渡期のものではないかと思われる。これと同手のこけしが「こけし」(美術出版社)の47頁に載っている。昭和31年7月発行なので、この手のこけしは昭和30年前後の作と考えて良いだろう。
手持ちの昭二岩蔵型こけしを並べてみた。左から昭和29年(万之丞型)、本作(昭和30年前後)、33年4月、35年1月、36年11月、37年。昭二の初期の岩蔵型は昭和36年に全日本こけしコンクールで「通産大臣賞」を受賞してピークを迎える。今回は、たまたま同種の胴模様で並べることが出来、岩蔵型の変遷の軌跡を辿ることができた。
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