第423夜:皆川たみ子のこけし
鳴子の高橋盛は昭和14年1月に秋田県の工芸指導所に招かれ、以後昭和23年まで秋田で木地の指導を行った。昭和17年からは本荘の皆川元一、佐々木末治、象潟の佐々木久作、横手の子野日幸助が弟子となった。皆川たみ子は元一の妻で、昭和18年頃からこけしの描彩を行った。秋田時代の盛はこけしに署名はぜず、盛のこけしの描彩には、盛、きくゑ(盛妻)、たみ子が混在していて、その鑑別は難しい。この時期のたみ子の真作は昭和24年作の4寸が知られているだけである(kokeshi wikiより)。元一・たみ子が働いた由利木工所は昭和26年に倒産し、夫妻は製菓業に転職した。その後、昭和42年3月に、橋本正明氏が本荘に元一・たみ子夫妻を訪ね、福寿木地にたみ子描彩のこけしが出来上がり、たみ子の描彩が明らかになった。その後も、収集家の依頼により、たみ子描彩のこけしが作られた。今回、このたみ子描彩のこけしを入手したので紹介したい。口絵写真は、そのたみ子こけしの表情である。
こちらが、そのこけしである。大きさは8寸、木地は福寿で昭和43.7.14の作である。橋本正明氏が依頼した復活初作とほぼ同様な作品であるが、胴の菊模様等は筆が良く伸びて「高勘」の華麗な趣を表現している。
盛のこけしと比較してみよう。右から昭和16年11月、昭和23年11月、本作、昭和26年8月(盛orたみ子か)。右端はたみ子が描彩を始める前の盛、右から2番目は鳴子へ戻って間もない頃の盛、左端は仙台にて入手されたもので盛かたみ子かとの記入がある。たみ子の本作は、胴の菊模様は菊の花弁が花芯まで伸びている点で右端の盛の菊模様の様式に近い。一方、面描について見ると、鬢が顔の外側にあり眉・目もやや外寄りになっており、これは右から2番目の盛の面描に近い。右から2番目の盛こけしがたみ子が作っていた時期に近いことを考えると、たみ子の復活作は自身の旧作をよく再現したものだと言えるだろう。なお、左端は盛雄作と思われるが、面描が右端の盛作と似た雰囲気なのが興味深い。
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