第422夜:金太郎系列の菊模様
小松五平の昭和一桁時代の作を入手して、その胴模様を見ていて気付いたことがあったので紹介したいと思う。五平は鳴子系の5つの系列の内、(高橋)金太郎系列に属する工人である。金太郎のこけしについては弟子の伊藤松三郎が憶えていて、小寸物を金太郎型として残しているが、それらは楓と牡丹の模様で菊模様は見かけない。文献等では、金太郎系列の胴模様に関して、「胴の菊には共通して茎が多く平行に描かれている」(こけし辞典)とある。また、こけし辞典では、小松五平を金太郎系列のタイプとしており、五平の古い時代のこけしには金太郎系列の特徴がかなり残っていると推測される。今夜は、その金太郎系列の菊の胴模様について考えてみたい。口絵写真は、昭和一桁台の五平こけしの表情である。
高橋金太郎の息子である万五郎はこけしを作らなかったので、そのこけしは万五郎の弟子達に引き継がれた。弟子としては3歳(明治29年)で金太郎に引き取られた伊藤松三郎、明治36年に万五郎の養女の入婿になった高橋寅蔵、17歳(明治40年)で弟子となった小松五平、10歳(明治45年)で万五郎家に入った岸正男がいる。そこで、この4工人の菊模様から金太郎系列の菊模様を類推することにした。ところが松三郎は木地が中心でこけしは昭和13年から始めたので、その菊模様は金太郎系列の特徴には乏しい。そこで松三郎の代りに、大正14年頃に松三郎の弟子になってこけしも作った佐藤末吉を取り上げた。
こちらが、その4工人の菊模様のこけしである。左から寅蔵(昭和18年)、正男(昭和14年)、五平(昭和一桁)、末吉(昭和一桁)である。末吉はやや異なるが、他の3者は同じような菱菊模様で、他系列の工人が描く菱菊模様と比べると、菊の周囲に茎葉を多数描いている。これが、こけし辞典等で言われている金太郎系列の菊模様の特徴と思われる。ところで、今回気付いたのは、正面菊の左右に蕾が描かれていることである。
4工人のこけしを横から見てみよう。寅蔵以外の3工人の菊模様には、その左右に蕾が描かれているのである。寅蔵は復活後のものが僅かに残るだけなので確認はできないが、こうしてみると金太郎系列の菊模様には多数の茎葉と一緒に蕾も描かれていたと推察できる。松三郎のこけしに蕾は無いのに末吉の古いこけしの胴模様には蕾が描かれており気になっていたが、末吉は大正11年の万五郎の一周忌に鳴子に行き、その後13年に花巻で独立している。師匠の松三郎と一緒に金太郎のこけしに接することもあったのであろう。初期の末吉は師匠の松三郎よりも金太郎系列の特徴をよく受け継いでいたのであろう。五平も末吉も昭和10年代に入るとこの蕾が次第に無くなってしまうのである。
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