第421夜:五平こけしの変遷(戦前)
五平のこけしは好きなこけしであり、その各時期の作を集めてきたが、戦前の作品については昭和14,5年までの遡りで止まっていた。今回、昭和一桁の五平こけしを入手したことにより、戦前の五平こけしも本数が増え、その変遷を眺めることができるようになった。戦前の五平こけしの特徴についてはKokeshi wikiの五平の項で詳しく述べられているが、大元はこけし手帖72号の「大湯のこけし」(柴田長吉郎著)に従っている。今回は手持ちの戦前五平こけし5本を元に、この特徴を個々に検証していきたいと思う。口絵写真は、昭和10年頃の五平こけしの表情である。
先ずはこちらを見て頂きたい。この5本の内、右2本と左2本はそれぞれ同じ時期のもので、①右2本は昭和一桁台後半、②中央は昭和10年前後、③左2本は昭和14,5年頃と推測される。では、個々の特徴を見て行こう。
(1)胴の形:①と②は直胴、③は括れ胴。古いものにも括れ胴はあるが、直胴が多いようだ。
(2)頭の形:①は丸い頭、③は頭頂部が平たい角張った頭で、②はその中間か。
(3)胴裾の赤ロクロ線:①、②は鉋溝から下全部、③は鉋溝の下半分ほど。
(4)胴下部の土玻:①は途中で折れ曲がる稲妻形、②、③は山形。
(5)菱菊上部の横菊:①は左下がり、②はやや左下がり、③はほぼ水平。
(6)正面菊の花芯の大きさ:①は大きい、③は小さい、②はその中間くらい。
次は横から見たところ。ここでのポイントは、正面菊の脇に蕾が描かれているかどうか。①では描かれているが、②、③では描かれていない。また①でも、右の方がしっかりと描かれている。
次は顔の描彩。眉は①、②、③とも太目に描かれている。上瞼は①右と③は細目、①左と②は太目でゆったりと描かれ、①右と③ではしっかりとした表情に、①左と②ではあどけない表情になっている。特に②は大きめな眼点とも相俟って、五平こけしとしては珍しいほんわかとした魅力的な表情になっている。
最後に側頭部。ここでは鬢飾りを見て頂きたい。①では前髪と鬢の間の赤2点から1筆描きで3方に描かれているが、②と③では、赤2点から2筆描きで3方に描いている。
①の2本を改めて比べてみよう。同じ大きさ(6寸)ではあるが、左はかなり細身に作られており、しかもニスが塗られているため見た目の印象も大分異なる。ほぼ同じ作風であるが、右のこけしは胴模様の細かさ、また肩の上面にも赤が塗られている等手が込んでいる。時期的には右の方がやや古いのではないかと思われる。
③の2本も比べてみよう。こちらも同じ大きさ(8寸)で木地形態もほぼ同じであるが、肩の山の丸味に少し違いが見られる。一方、面描は大きく異なる。右の表情が一般的なものであり、これに比べて左の面描は眉が上がって前髪の近くになり、上瞼は鋭角的で緊張感に溢れた強い表情になっている。時期的にはどちらが古いのであろうか…
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