第431夜:大沼誓の小寸2点(大正期)
緊急事態宣言が開始されて1日目、昨日からTVはこの話題一色である。先月の26日を最後に自粛生活に入った身には、改めて何かをしなければならないということはないだろう。さて、こけし界では太平洋戦争があったために戦前のこけしは残っているものが少なく、さらに大正期まで遡ると稀品の部類に入ってしまう。こけしの一大産地であった鳴子系でもその傾向は変わらない。そんな中にあって大沼誓のこけしは大正期のものが割合知られており、古品市場でも時々顔を出す。先日のヤフオクでも、そんな大正期・誓のこけしが出品されていた。大正期の誓こけしとしては8寸強の定型、6寸ほどの地蔵型、それに4寸ほどの地蔵型が知られている。今回のヤフオクの出品には、この3種の他に4寸ほどの眉無したちこが入っており、このたちこは初見であった。今夜は、その小寸2本を紹介しよう。口絵写真は、その小寸2本である。
こちらはキナキナ風の地蔵型である。大きさは3寸6分。頭は緩い嵌め込みになっており、振ると頭がクラクラと動く。胴部には大きな旭菊風の菊花が一輪描かれている。ただ緑の色が飛んでしまっているのが残念である。同手の地蔵型が「こけし 美と系譜」㉖(36頁)に載っているので確認して頂きたい。
このキナキナ風の地蔵型は他の工人も作っているようで、左は高橋みねの地蔵型(4寸)である。みねは高橋直蔵の弟子である利四郎の妻で、こけしは利四郎の弟子の中村雷治の作と言う。誓は大正の初め2年間ほど「高亀」で働いており、何らかの関係があるのかも知れない。
こちらは眉無しのたちこである。大きさは3寸6分。頭は作り付けで胴は下部が少し凹んだ形態である。胴には楓が一葉、大きく描かれ土玻状に赤点が下部にある。こちらも緑色は殆ど飛んでしまっていて微かな痕跡が残るだけである。眉は無く、眼点の大きな瞳が特徴的である。
眉無しのたちこと言えば、勘治や幸八のものが有名で、鳴子の古作では定番だったのかも知れない。左は勘治(一家)のたちこ4寸である。誓は元々、勘治の弟子だった訳で、このようなたちこは見ていたのかも知れない。
小寸2点の顔を改めて見てみよう。頭頂部の赤い水引は3筆描き、これは大正期の誓こけしの基本のようだ(大寸は3筆が4個)。前髪は水平に一筆で、左右の一筆の鬢とで周りを囲み、その中に目・鼻・口を描いている。左の地蔵型は面描が向かって右下がりになっているが、これは「美と系譜」も同様なので、当時の誓の癖かも知れない。眉無しの目は勘治などは眉の位置に描いているが、誓は眼点が大きいためかそれ程上方にはなっていない。口は写真では見難いが、左の地蔵型は2筆、右のたちこは1筆になっている。
最後に、今回ヤフオクに出品された大正期の誓こけし(6寸地蔵型は除く)を並べて見た。大正期のものとなれば仕方ないが、赤の色も薄くなり、緑の色が殆ど残っていないので、大正期の豊麗な色彩が見られないのが誠に残念である。
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