第452夜:野地スマイル
ここ5日、東京のコロナ感染者は40人を割っている。緊急事態宣言による自粛の効果が出てきているようだ。まだまだとても安心は出来ないが、先行きに明かりが見え始めたと感じられる。ヤフオクには毎日、種々のこけしが出品され、自宅に籠っている我々にとっては有難いことだ。古品以外にも中古で保存の良い良品も纏めて出品され、安価に入手できこともある。既に持っているものを状態の良いものと入れ替えることも出来る。今夜紹介するのは野地忠男さんのこけし。普段見かける野地こけしとはかなり雰囲気の違うものだったので、調べてみると初期のものらしい。入札は2人しかおらず、安価に落札できたのはラッキーだった。口絵写真はそのこけしの表情である。
ヤフオクでの入札にあたっては、先ずkokeshi wikiでそのこけしに関する情報を集める。今回の出品こけしのタイトルには「最初期作S52~3年作」とあり、wikiには該当する写真は無かったが、文中には「昭和52年6月より佐久間由吉型を作る」と記載されていた。従って、出品こけしが最初期の由吉型である可能性が出てきた。たまたま手元にあった「地梨34号」(野地さんを囲む会の機関紙)を開いてみると何と「野地忠男工人の初期こけし」(高橋利夫著)と題した記事が載っており、そこには今回のこけしと同手のこけしが3本写真で紹介されていた。更にそこから、こけし手帖441号が紹介されており、そこに記載された「野地忠男のこけし・研究ノート」(小川一雄著)の中で、野地さんのこけし製作に関して詳細に解説されており、この手のこけしの事もあった。それによると、この手のこけしは昭和53年7月の名古屋こけし会で最初に頒布されたものらしい。このこけしの「原」があるかどうかは分からないが、由吉を意識した作品とのことで、由吉型の出発点のこけしを考えて良いだろう。
さて、こちらがそのこけしである。大きさは6寸。胴は土湯系の特徴であるエンタシスに近い。頭は縦長で小ぶりであるため、全体的にほっそりとした形態である。頭頂部の蛇の目は小さく、前髪は横広で毛先が細かく揃っている。赤いカセは2重でくねっており、間に緑のくねり線が入っている(退色したためか紫に見える)。鬢は長く2筆描きのようである。切れ長の二側目は静かな微笑みを讃えている。湊屋のこけしに見られるアルカイック・スマイルの範疇に入る野地スマイルと言ってよいであろう。赤を主体に、緑と黄を配した胴のロクロ線模様は、簡素ながら味わい深い。最初にヤフオクで見た時には「変なこけしだなぁ」程度にしか感じなかったが、手元に来てみると、見れば見るほど味わいのでてくる「スルメ」のようなこけしである。
最後に横顔をやや上方から見てみよう。このこけしの独特な雰囲気がよく分かると思う。後年、多くの愛好家から渇望された野地こけしの原点となるこけしである。
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