第451夜:大沼俊春の甚四郎型
昨夜は桜井昭二の甚四郎型を紹介したが、甚四郎型は他にも昭二の弟の佐藤実(第694夜)や新型こけし作者の石原日出男(第107夜:描彩のみ)も精力的に作っている。更には、甚四郎の養子の俊春も作っている。ただ、俊春の甚四郎型は、国恵が収集を始めた昭和40年代後半以降では模様の様式化が進んで新型こけし風になっており、伝統こけしの古風な面影とは程遠いものとなっていた。そのため甚四郎型は好きだったが、俊春の作品はコレクションの中には無かった。その後、ネットを中心にこけしの中古品市場が盛んになり、ようやく俊春の甚四郎型旧作を入手することができた。今夜はそのこけしを紹介したい。口絵写真はその表情である。
俊春は洞爺湖時代の昭和16年より養父甚四郎について木地修業を始め、17年には甚四郎と一緒に鳴子にやってきた。鳴子高等小学校を卒業した18年からは本格的に木地挽きに従事し、この頃からのこけしが残っている。昭和19年に甚四郎が亡くなってからは鳴子を離れて各地を巡り、40年代後半には平泉に移り、中尊寺の門前に売店を構えてこけしも作っていた。甚四郎の洞爺湖時代のこけしは昭和34年から復元し、35年6月に友の会の例会で頒布された。この初期甚四郎型は、甚四郎の「原」こけしに忠実な復元であった。
さて、こちらが本稿のこけしである。大きさは7寸8分。甚四郎洞爺湖時代の復元作である。胴底には「盛岡 甚四郎型 大沼俊春」の署名と「41.5.7 友の会」の書き込みがあり、友の会での入手品のようだが、俊春が盛岡に居たのは昭和30年代とのことであるので、友の会での新作頒布品かどうかは分からない。34,5年の復元作と比べると、頭が丸くなり胴の反りがやや大きくなったようだ。面描、胴模様など全体的な様式は初期復元作と変わらないが、描彩が手馴れてきた分、素朴さ・泥臭さが薄れて洗練され、愛らしいこけしになっている。
昨夜の昭二作と並べてみた。胴の長さは変わらないが、頭の大きさが両者でかなり違うのが分かる。大らかな表情の俊春と鋭い表情の昭二、同じ甚四郎型ながら、それが醸し出す雰囲気は大きく異なる…。
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