第474夜:ビスクドールの微笑(佐藤巳之助)
今日の東京の新型コロナ感染者数は95人と久し振りの2桁台となった。慣れとは恐ろしいもので、緊急事態宣言が出されて自粛していたころは10人単位の増減で一喜一憂していたのに、今では2桁と言うだけで実際には100人近いというのに、随分と減った気がしてしまう。トランプ米大統領は未だ日に万単位の新規感染者が出ているのに、もう新型コロナに勝ったようだと吹聴しているようだ。さて、ヤフオクに見慣れないが興味を惹かれるこけしが出た場合、先ずはkokeshi wikiを開いて検索する。そこで全てが分る訳ではないが、入札に参加するかどうかの参考になる。数日前に出品されたこけしは佐藤巳之助(昭和14年)となっていたが、戦前の巳之助として国恵は認識していないものであった。wikiを検索すると殆ど同手のものが載っており、安心して入札に臨むことが出来た。そうして入手した巳之助のこけしを紹介する。口絵写真はその表情である。なお、手元に届いてからwikiの写真と詳細に比べたところ、同一のものと思われる。
こちらがそのこけしである。大きさは8寸。ヤフオクの出品写真で見た時から胴が太いこけしだなぁと感じていたが、実際に手元で見てみるとその重量感は半端でないし、持ってみるとずっしりと重たい。しかし、こけしの形としては何ともシンプルなもので一端の木地師であれば造作もないものであろう。畳付きには大きめな面取りがしてある。胴模様は肘折菊の三段重ね、大きく簡素な花模様がシンプルな胴によくマッチしている。
このこけしの見どころは何と言っても表情に尽きる。前髪、鬢とも細筆でサラサラと手早く描かれ、その外側には桃色がかった赤で手絡が描かれている。眉・目の描線は長く湾曲して上瞼は太め、下瞼は細めに引かれ、下瞼を大きくはみ出して丸い眼点が描かれている。その視線は真っすぐ正面を向いて、見る者の心に迫ってくる。細筆で描いた大きなU字鼻、墨で輪郭を描いた口にははみだし気味に紅が斜めに入れられている。表情を見ていて何処かで見たような顔だなぁと思っていた。それはジュモーに代表されるビスクドールの顔である。中央に寄った眉の描線と眼点が醸し出す雰囲気がそう思わせるのかも知れない。この微笑は単なる可愛い微笑みではない。そこにはもう一段深い訴えるような何かがあるのである。
戦前の巳之助こけしとして有名な本人型(右)と並べてみた。右は昭和16年のもの。胴は細くなり肩に段が入り、三段の肘折菊ともども洗練されたものになっている。面描も大きくなり、おおらかで人懐こい表情になっているが、もはや訴えるような強烈な感情は薄らいでいる。
巳之助は「たつみ」による周助こけしの復元で著名である。確かに各種の周助型は周助の特徴を余すところなく捉えており、その高評価に異論はない。しかし、それらのものはどうしても「作らされた」感が拭えないのである。所詮「写しは原を超えられない」と言うのであれば、それは仕方のないこと。とすれば、巳之助の真の姿は戦前のものに求めるしかない。本作などは正にそれに合致したこけしと言えるだろう。
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