第479夜:秋山忠こけしの行方は…
久し振りの更新になってしまった。例年なら、こけし関係のイベントが目白押しとなる時期であるが、コロナ禍が未だ鎮静化しない現在、開催は難しいのであろう。開催に意欲的であった「みちのくこけしまつり」は中止が決まったようである。唯一の楽しみでもあるヤフオクもここの所、ワクワクするような出品は見られない。そこで、以前入手したものの未だ本ブログで紹介していないこけしを探してみた。今夜は秋山忠のこけしである。2年ほど前、正吾さんに慶一郎写しのお願いをした時に、忠こけしは作らないかと聞いてみた。正吾さんは即座に孫の忠男さんが居るのだから忠男さんに頼んだらどうかとやんわり断られた。正吾さんが作るのはあくまで後継者が居なくなったこけしということであった。口絵写真は忠こけしの表情である。
こちらが、忠のこけしである。大きさは5寸3分。決して大きなこけしではないが、キリッとした表情に惹かれた。忠こけしは、眉・目の描線が鋭角的で角にアクセントが付いて辛口の表情である。しかしキツいだけではなく、そこには気品も備わっていてそこが気に入っている。胴下部には太い鉋溝が入っているのも特徴である。大寸では胴上下に赤と緑、さらには紫のロクロ線も入って華麗である。本作は小寸のため、ロクロ線の無い白胴であるが、それが清楚な雰囲気を醸し出していて好ましい。大きく描いた2葉の楓も力強い。
中寸(7寸5分)と並べてみた。こちらはロクロ線が入っているが、歳を経て退色しており、赤の色も薄くなって本作と並べても違和感はない。鳴子のこけし通りに面した秋山こけし店が店を閉じたのはいつの事なのだろう。昭和50年代にデパートの実演に来ていた忠男さんとは二言三言言葉を交わしたことはあったが、それ以上のことはなかった。既に80歳に近づいた忠男さんがこけしを作ることはもう無いであろう。そして、魅力的な忠型のこけしが作られることももう無いのであろう。90歳を超えてまで、瑞々しいこけしを作っていた正吾さんの逝去は、こけし界にとって計り知れない損失であった…。
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東日本大震災のあった平成23年の夏に、母と2人で宮城県に旅行した時に、鳴子温泉に一泊しました。夕食を済ませた後、外に出て数件こけし店を見歩いでみたのですが、秋山さんの店はその頃既に閉まっていて、店舗と思しき場所に車が止めてあった記憶があります。あと、岸こけし店の中に入ってみたのですが、佐藤賀宏さんのこけしが数本置いてあった他に高橋定助の5寸程のこけしが数本(値段は2,800円だったと思います)と大沼新兵衛の5寸程のこけしが一本(値段は3,600円だったかな?)、それに高橋定助と高橋盛が和紙にこけしの描彩をしたもの(これは2,000円だった記憶があります)が置いてあったので、賀宏さんのと新兵衛さんのこけしと定助さんのこけし絵をそれぞれ買い求めでみました。こけしの産地では新品のみで中古品の販売はしていないイメージがあったので、意外な買い物ができたと感じた事と、思いがけない掘り出し物を見つけたという嬉しさを感じた記憶があります。
それにしても「岸こけし店」という看板を掲げながら正規さんのこけしが見当たらなかった記憶があるのですが、あの頃既に正規さんはこけしを作っていなかったのでしょうか?。どうも情報不勉強で申し訳ないのですが・・。
投稿: 益子 高 | 2020年9月28日 (月) 21時09分
益子 高さま
懐かしい訪問記、ありがとうございます。
私は平成21年の11月に岸さんを訪ねました(千夜一夜1の第339夜参照)。岸さんは元気そうに見えましたが、既に病が深刻な状況になっており、翌22年の3月5日に亡くなりました。何とか生前にお会いできたのがせめてもの慰めです。益子さんが行かれたのはそれから約1年後となります。そのため、もう正規さんのこけしは無かったのでしょうね。今でも岸さんの店はやっていますが、後継者の正章さんが休業中でこけしは作っていないようです。復活してくれれば嬉しいのですが…。
投稿: 国恵 | 2020年9月28日 (月) 21時50分
そうでしたか、正規さん亡くなられていたのですね。存じませんでした(恥)。中高年の女性の方が応対してくれたのですが、正規さんの奥様なのでしょうね。ともかく、情報ありがとうございました。
投稿: 益子 高 | 2020年9月29日 (火) 21時36分