第488夜:勘治一家の立ち子について
先日、ヤフオクで落札した柿澤是隆一家のこけしが届いた。中に是隆さんの立ち子が3本あったが、皆同じ形・描彩ではなく、それぞれが意識して作られたことが分る。そこで、「勘治一家」の立ち子について改めて資料などを見直してみた。勘治一家の立ち子としては、先ず「日本土俗玩具集」に掲載されている勘治こけし4本の中の1本がよく知られており、これが代表的なものと言って良いであろう。次に、「これくしょん(45号)」には、蔵王高湯の岡崎長次郎や高橋勘四郎の小寸物と一緒に8本の立ち子が載っている。この8本を子細に見比べてみると、大きさ、形、描彩に違いがあることが分かり、これは手作り物のバラツキというより、ある程度の意識を持って作られたと考える方が妥当かと思われる。口絵写真は、福寿初期の勘治一家立ち子の頭頂部である。
こちらが柿澤是隆さんの立ち子3本である。大きさは3寸9分と4寸(右)である。胴は細いものと太目のものがあり、右は肩に鉋溝が入っていない。勘治一家の立ち子は肩に鉋溝が入ったものが有名であるが、「これくしょん」の写真をよく見ると、鉋溝が無いものもあるようだ。この3本は、そのような形の違いを考えて作られたものなのであろう。形に差異はあるものの描彩は全て同じである。
そこで、国恵志堂の福寿コレクションの中から、この勘治一家の立ち子を探してみた。その中の代表的な立ち子(4寸)を年代順に並べてみたのがこちらである。左は手持ちの中では一番古い(昭和40年代後半)ものと思われ、大きさも3寸8分とやや小さい。頭頂部の前髪と後ろ髪の間の結びの黒点が無いのが特徴である(口絵参照)。左から2番目は昭和53年8月の4寸、友の会の創立25周年の記念こけしとして作った西田コレクションの古鳴子3本の中の1本である。福寿の立ち子の中でも特段の出来栄えである。3番目は昭和56年5月、肩の鉋溝がやや下がり、楓の下2葉の描法が丸い一筆描きとなっている。なお、「これくしょん」を見ると、どちらの描法もあることが分る。4番目は59年4月、目の描線が細くなり2筆の鬢の上がくっ付いている。5番目は63年10月、頭が丸くなり目も下がり気味、楓の描法が56年と同じ一筆描きになっている。右端は平成2年5月、全体的にやや細めの形態、鬢はほぼ一筆のように見える。胴模様は正面菊。
肩に鉋溝の無い作例を取り上げてみた。左は是隆作(前述)、左から2番目は国恵志堂蔵の勘治一家立ち子で鬢は一筆描き。3番目は福寿作で頭、胴ともかなり細身の形態になっている。細い頭に合わせて目尻がやや上がった鋭い表情になっている。鬢は大きめの一筆と思われる。右も福寿作の3寸9分(昭和59年8月)。こちらもやや細めで肩のこけた形態であり、目の描線も細い。肩に鉋溝の無い立ち子は勘治一家の立ち子のイメージとはやや雰囲気が異なって見える。
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