第489夜:砲弾形の鳴子こけし(佐々木久作)
「木の花(第22号)」に『久作と幸助のこけし』という記事が載っており、その中に佐々木久作の「雪玉模様」のこけし(昭和18年頃)が載っている。その稿では『赤と緑の円をランダムに散らした胴模様が簡素な中にも夢幻的で雪国に相応しい胴模様である』と著者の中屋惣瞬氏は述べている。そのこけしは胴模様の珍しさと共に、肩がコケて丸く、胴が中ほどから下部にかけて膨らんだ砲弾形の形態が特徴的でもある。中屋氏はこの形を「古式な姿」と表現しているが、鳴子の古いこけしでこのような形をしたものは見たことがない。この形と胴模様は昭和56年に滝島茂によって再現され、国恵志堂コレクションの中にも1本入っている。そんな珍しい形態の久作のこけしが先日ヤフオクに出品され、4コインの即決ということだったので迷わず入手した。戦後に久作が自身の旧作を復元したもので収集家に頼まれたものであろう。今夜はその久作のこけしを見ていきたい。口絵写真は久作こけしの表情である。
こちらがその久作のこけしである。大きさは5寸8分。胴底には「象潟 久作」の署名があり、鉛筆で「茂」の文字も見えることから、木地は滝島茂と思われる。肩には段があるが窄まっており、そこから胴下部に向けて緩やかなカーブを描きながら膨らんでいる。その形態から「砲弾形」と名付けてみた。その胴には楓を2葉、縦に並べている。表情、可憐で控え目、如何にも東北の童女を思わせるが、やや年長のおっとりとした雰囲気の女人にも見えるのは胴の形態の影響かも知れない。
滝島茂の同型こけし(左)、久作の普通型のこけし(右)と並べてみた。左の茂作は6寸で昭和56年5月。右の久作普通型は6寸で木地茂、56年6月。茂のこけしは頭が大きく、中央の久作と比べて胴の膨らみもそれほど大きくはない。大きさも少し違うことから、中央の久作こけしとは時期がやや異なるのかも知れない。右の久作は「高勘」の典型的な形態と胴模様、面描が中央に寄って表情にも張がある。ただ、味わいと言う点では中央の久作の方に軍配が上がるかも知れない。
ところで気になるのは、どうして久作がこのような形のこけしを作ったのかということ。師匠である盛からの伝承なのであろうか? 盛のこけしでこのような砲弾形のこけしを見たことはないが、それを類推させるこけしは見いだせる。上の写真は昭和8,9年頃の盛こけし(国恵志堂蔵)。このこけしの胴は、胴の中ほどが膨らんでいるのである。このこけしで肩の角張りを丸くすれば砲弾形にかなり近い形になりそうである。盛は秋田に行ってからはモンペこけしなど多彩な形のこけしも作っており、砲弾形のこけしも作ったのかも知れない。なお、盛が何故、胴の膨らんだこけしを作ったのかについては、偶々、胴に節などがあり、その部分を削り込まなかった結果、偶然胴が膨らんだこけしが出来上がった。それはそれで面白い出来栄えだったので、その後もそのような形態のこけしが作られたと…。一本のこけしから、色々と思いを広げてみるのは楽しいことであり、こけし蒐集の幅と深みを広げることにもなる。
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