第497夜:健三郎のこけし
ここ横浜では、コロナ禍の現実が嘘のように穏やかで暖かい大晦日を迎えた。しかし、東京では新規感染者数がついに千人を超えてしまった。本ブログも404夜で今年のスタートを切ったのであるが500夜には3夜足らずに今年を終えることになってしまった。さて、今年の最後は小寸ながら存在感のある大沼健三郎にご登場を頂こう。健三郎のこけし製作歴は長く、戦前から戦後の50年代まで多くのこけしを残している。国恵が収集を始めた40年代後半から50年代にかけては、第2次こけしブームの人気工人として、そのこけしの入手は簡単ではなかった。その健三郎のこけしと言えば、やはり戦前作、それも復活初期の昭和12,3年代のものに最も心を惹かれる。「こけしの世界」掲載の久松蔵品や「木の花」掲載の中屋蔵品は垂涎の的である。しかし、その手のものは市場には出て来ず、戦前ものでよく目にするのは15年以降のものである。15年のものはかなり出回っているが作風にはかなり幅があるようで、時期の早いものほど初期の作風が残っているようだ。先日ヤフオクに出た健三郎も15年頃のものと思われるが、木地形態・描彩の古風さに惹かれて入手した。口絵写真はその表情である。
こちらが、そのこけしである。大きさは6寸。胴底に「溝口 健三郎」との書き込みがあり、溝口旧蔵品と思われる。頭が小さく、胴が長い木地形態である。戦後の健三郎の晩年に、息子の健吾と一緒に胴の細いこけしを作ったが、戦前のこのような作を参考にしたのであろうか。胴上部に鉋溝が1本入り、胴上下と肩の山のロクロ線は赤のみで古い様式で描かれている。胴には車菊と三方に花弁の開いた正面菊を上下に描き、その間にサラサラとした筆致で緑の茎葉を描いている。洒脱な描彩は手慣れて動きが感じられ、心地良い。
小さな頭に合わせて、前髪は小さいが後ろの膨らみから2筆の後ろ髪が流れるように描かれる。内側が長い3筆の鬢は速筆で描かれ、前髪から後ろに放射状に描かれた水引は前髪と鬢の間にも入って鬢飾りともなっている。眉と上瞼の描線は細く、丸く入れた眼点があどけない表情を醸し出している。小寸のためか、昭和12,3年頃の朴訥ながら力強く存在感に溢れた作風とはやや異なるが、鳴子こけしの古風さを十分に感じさせるこけしである。
本ブログも今年は今夜で最期を迎えた。コロナ禍の中、一年間お付き合いを頂いた皆様に感謝申し上げます。来年こそは、コロナが収束して、また以前のような生活が戻ってくることを祈念して、筆を置くことと致します。皆さま、良いお年を!!
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