第507夜:初期の伊太郎型(阿保六知秀)
このところ初期作の追及に励んでいるが、今夜は津軽系の佐藤伊太郎型である。現在、津軽系の多くの工人が伊太郎型のこけしを作っているが、kokeshi wikiによると、その発端は、昭和43年2月に鹿間時夫氏が佐藤善二に制作を勧めたのが発端であるとのこと。当時、善二には阿保六知秀と小島俊幸という二人の弟子があり、善二、六知秀、俊幸の3工人が伊太郎型に挑戦することになった。この3工人の初期の伊太郎型はkokeshi wikiの各々の工人の項で紹介されている。その初期の伊太郎型は3人とも2種類作っており、2本の異なる伊太郎こけしを「原」としたことが分かる。鹿間氏の著書「こけし鑑賞」を見てみると、佐藤伊太郎の項には3本のこけし(いずれも米浪氏蔵)が載っており、その内の左と中央の2本が「原」に選ばれたようだ。先週のヤフオクには、阿保さんと小島さんの伊太郎型が出品され、いずれも胴底には「43.6.10作」の書き込みがあり、その形態・描彩からも初期の伊太郎型と推測された。やや作風の異なる2本であり、比較する必要性から両方とも入札して手にすることができた。今夜はそのこけしを中心に初期伊太郎型を見てみよう。口絵写真は阿保さんの初期伊太郎型の表情である。
こちらが入手した阿保(左)、小島(右)両工人の伊太郎型こけしである。大きさは6寸である。胴底には同じ鉛筆の筆跡で「43.6.10作」と記入されており、同時に入手されたものと思われる。胴模様のロクロ線は紫一色の簡素なものである。この2本、形態が異なることから、「原」は別物であると思われる。
同手の善二作(左)と六知秀作(右)を並べてみた。共に胴裾が窄まっており、「こけし鑑賞」の中央の伊太郎こけしの写しと思われる。「原」は8寸ということだが、大きさ的には6寸位の方が丁度良いようだ。頭は縦が短い平頭で髪はオカッパになっており、前髪の先には筆跡が残っている。首は太く肩は張っており、胴裾に向かって少し細くなっている。「原」写真では、胴のロクロ線は左の善二作のように紫と赤のロクロ線を交互に描いているが、右の本作では赤の部分が抜けて、紫のロクロ線だけになっている。木村玄三コレクションの古津軽こけしには紫だけのロクロ線のものも見られ、却って始原的な雰囲気を漂わせる効果があるようだ。本作より2か月後のkokeshi wikiの阿保作伊太郎型(43.8月)では赤のロクロ線も描かれているので、紫ロクロだけの作品は極初期だけなのかも知れない。また、口も阿保作では墨のみだが、善二作では墨の中に紅が入っている。
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