第505夜:こけしと由来(佐藤文男)
古品と呼ばれるような古いこけしを扱う場合、そのこけしの由来(来歴)は重要な要素の一つである。由来とは、そのこけしが作られてからこれまでに歩んできた経過ということで、その過程で著名なコレクターに所有されたとか、文献等に掲載されたとかいう事があると、そのこけしに対しては一定の評価がされているということで、それ相応の扱いがされている。そのような由来については、陶磁器のようなものはそれが収納されている箱に箱書きのような形で記載されていることが多いが、こけしに関しては胴底に旧所有者の印やラベルなどで残されているものが多い。手書きで書かれた文言は、その書き手が判然としないことからその信憑性は参考程度に考えた方が良い場合もある。特に日付(制作日、入手日)については注意が必要である。さて、先日、ヤフオクに遠刈田系の佐藤文男の戦前作が出品されていた。文男の戦前作には興味を持っていたので、早速kokeshi wikiを見てみると、何とそのこけしがwikiに掲載されているではないか…。wikiにもヤフオクの出品解説にも、寺方徹氏旧蔵品と記されており、由来のはっきりしたものであった。そのためもあって入手欲は一気に高まり、その分価格も上がってしまったのは仕方のないことだろう。今夜はそのこけしを改めて紹介しよう。口絵写真は、その表情である。
こちらが、そのこけしである。大きさは3寸9分。送られてきた箱は大きかったが、手にしたこけしは思いのほか小さく感じられた。丑蔵の長男として遠刈田に生まれた文男は、丑蔵が湯田に出向いていたため、佐藤文助の弟子となって木地修業を行った。そのため、その作るこけしも文助こけしに倣った文助型であった。文助は戦前から戦後にかけて遠刈田の人気工人であり、それは自然な成り行きであったのであろう。本作は昭和17年作ということで、文助としてはピークをやや過ぎた頃の作風である。撫で肩の細身の胴に大きな丸頭、眼点の大きな眉・目はアクセントが付いてカクカクした感じである。初期の作ということと、大きさが4寸弱という小品であることが上手くマッチして、初々しさと意気込みが感じられる見事な出来栄えのこけしとなっている。退色も無く保存状態が良いのも有難い。ただ、本作は胴底に「遠刈田 文男」の書き込み(本人の署名かどうかは不明)があるのみで、寺方旧蔵を示す痕跡は何も残っていない。
その後の文男の作品と並べてみた。左は大きさ7寸、36才の署名と「33.4.9」の張り紙がある。右の本作から15年以上も後の作であるが、まだ文助型を作っていた時期であり、標準的なこけしであろう。角張った頭に撫で肩、胴上下を2本ずつの赤ロクロ線で締め、その間に4段の重ね菊を描いている。黒目の大きな可愛いこけしであり、眉目のアクセントは殆ど無くなっている。手慣れた感じになっているが目力は弱く優しい表情になっている。大きさは左の半分の小品であるが、右の本作の存在感は遥かに勝っていると言えるだろう。
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