第541夜:帰ってきた蛸坊主(続編)
前回の掲載から一か月以上も経ってしまった。ちょうど東京オリ・パラの間を休んだことになる。自粛生活の中で、オリ・パラ観戦に多くの時間を費やしたことも理由の一つではあるが、この間、新しいこけしとの出会いが無かったことが最大の理由である。8月の入手こけしはヤフオクでの3本組1点のみ、長い蒐集生活の中でも稀有なことであった。9月になって、ぼつぼつこけしも入ってきており、本ブログも再開することになった。10日程前にヤフオクで岩本芳蔵のこけしを入手した。戦後の極一般的な芳蔵のこけしであったが、保存が良かったのと、ぜひ並べて見てみたいこけしであったからである。口絵写真はその芳蔵こけしの表情である。
こちらの2本のこけしの顔を見て、どちらが誰の作か直ぐに分かる方は、中の沢の蛸坊主に相当精通した方であろう。芳蔵とその弟子達の誰かという事までは分かっても、個々の工人までを言い当てるのは容易ではない。それはど両者は良く似ている、言い換えれば弟子が師匠のこけしを良く写しているということになる。正解を示そう。左は芳蔵、右が荒川洋一の作である。荒川さんのこけしは第512夜で紹介した、筆者の蒐集初期(S46年10月)のものである。一見した違いは、右の荒川作が頬の下がふっくらしていることと、頭頂部の盛り上がりが大きく丸いこと、そして赤い前髪が大きいことくらいである。
全体像で比べて見よう。こうして見ると、右の荒川作の方が胴が太いこと、上部の牡丹の花は左の芳蔵作の方が大きいこと、花の花弁に塗った赤いグラデーションは荒川作の方が縁の薄塗りの部分が大きいことであろうか。いずれも描彩の個人差に寄るもので、様式は全く同じになっている。昭和40年代の半ば頃、まだまだ弟子は師匠のこけしを忠実に写すことから始めたことがよく分かる2本のこけしである。
署名である。第512夜で話題にした荒川さんの署名である。「芳蔵弟子」との記載が荒川さんの気持ちを表している。
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