第553夜:ピークに向かう文吉こけし
今日から師走である。激動の2021年もあと一か月となった。現在のコロナの鎮静化が続くことを願わずにはいられないが、オミクロンという変種が発見されて事態は怪しくなってきた。さて、今夜も友の会の例会で入手したこけしの紹介である。当日の入札こけしの群像は第551夜で紹介しているが、その中に佐藤文吉のこけしは3本含まれていた。1本は昭和20年代中頃の作で珍しく、当日の入札でも人気が高かった。もう1本は昭和39年頃と記載のある胴上部にくびれがある1尺のこけし、そしてもう1本が今夜紹介する文吉である。会場でこの文吉を見た時に頭に浮かんだのは、「木の花(第8号)」の<戦後の佳作>⑧に載っていた文吉のこけしである。しかし、この文吉はあまり人気がなく他に応札者はなく筆者が手にすることが出来た。口絵写真は、その文吉の表情である。
こちらが、その文吉のこけしである。大きさは8寸1分、この時期の文吉こけしは胴上部が向かって左に曲がっているものが散見され、本こけしもその例に漏れない。この点が応札が無かった原因かも知れない。この文吉の見どころは何と言っても目を中心にした表情に尽きる。「木の花」の著者である北村勝史氏の解説を引用しよう。『昭和39年作、…。前述の文吉狂いの糸口になった作である。眼は水平に近い切れ長三日月。眼点は斜に大きめに。実に静かな温顔である。』と。文吉こけしのピークは2回あるとされ、第1回目は昭和36年の1年間、第2回目は昭和39年末から43年までの4年間と言われている。本作には胴底に「39.11.24」の書き込みがあり、正に第2回のピークに向かう出発点のこけしということができる。本作、きっちりとした目線で前を見ているが、視線に強さは感じられずぼーっとした感じにも見える。
もう1本、同手のこけしと並べてみた。右は大きさ1尺、胴底には「40.4/1 直」との書き込みがある。「直」とは文吉から直接に入手したということであろう。目の表情などは左と殆ど変わらないが、口が「べろ口」になっているのが特徴でもある。
さらに1本を追加…。右端はピーク最盛期と言われる昭和41年頃の作。横拡がり気味の頭に顔一杯の大きな目を描き、鋭さの中に微かな笑みを浮かべた表情は何とも魅力的なこけしとなっている。
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昭和50年代に天童のご自宅によく伺い色々な作品を作って頂きました。私は文吉さんのえじこが好きで小寸のえじこを3種作ってもらい棚に並べて楽しんでいます。
投稿: 雪割草 | 2021年12月 1日 (水) 15時52分
雪割草さま
そうでしたか…
文吉さんのえじこは記憶にないので貴重なものですね。
当時は工人さんも沢山居て、楽しい時代でした!
投稿: 国恵 | 2021年12月 1日 (水) 21時09分