第562夜:盛秀の初期こけし
今日から2月が始まった。ほどなく中国北京では冬季五輪が始まる。日本の新型コロナの感染は鎮静に向かうのか、更なる増加に行ってしまうのか心配は絶えない。さて、昨日は盛秀太郎の昭和20年代、穏やかで明るい笑顔が微笑ましいこけしを紹介したが、今夜は更に時を遡った盛秀初期のこけしを紹介したい。数年前にヤフオクに出た正末・昭初の盛秀こけしは、古津軽の初原的で怪奇な表情とその出来立てのよう極美な保存の良さとから桁違いの高値となったが、本作は昨年10月に出品されたもので保存状態もそこそこだったため入手範囲内に収まって国恵志堂コレクションにやってきたものである。盛秀初期の特徴をきっちり備えたもので、昭和初期のものであろう。口絵写真はその表情である。
大正期から昭和の50年代までの長期に渡って、こけしを作り続けた盛秀太郎の作品は、大正期から昭和初め、戦前から昭和20年代、昭和30年代以降の3期に大別されると言って良いだろう。第1期は、津軽の風土性を体現したこけしで、素朴・稚拙というよりは、グロさ、怪奇さ、妖しさなど呪術的な雰囲気を漂わせた「怪作」である。第2期は、温和で穏やかな中にも芯の強さを持った津軽乙女を表わしていて愛おしさに溢れるこけしである。第3期は戦後の津軽こけしを世に広め、盛秀の名を一躍有名にした「睫毛こけし」である。その第3期のこけしですら、こけしブームの中では入手は困難であった。第2期、第1期の盛秀こけしが手に入るようになったのは、ひとえにネットオークションの普及が大きな役割を果たしていると言えるだろう。
さて、本作を見て頂こう。大きさは5寸5分。作り付けの頭、膨らんだ胸、胴裾の拡がりの形体は、昨夜の第2期のこけしと同様であるが、胴の凹凸は少ない。この胴の凹凸は古いものほど少ないようである。胴には赤・緑・紫の3色で太めのロクロ線を引いて、胸部には唐草文様を描いている。この手の初期作の中ではあっさりした胴模様と言えるだろう。
このこけしの見どころは、やはり頭部、特に面描であろう。昨夜の第2期のこけし(左)と並べてみた。黒頭の頭頂部は丸く抜けており、色は塗られていない。これも第1期の特徴なのであろう(第2期は赤く塗られている)。黒頭の横の部分は途中で切れており、頭髪と繋がった鬢のようにも見える。そしてこの空いた部分には赤い斜め線の模様が描かれている。この赤い模様は前髪の下にも描かれており、面描の大きなアクセントになっている。この手の面描のこけしを「前髪」と呼ぶようである。眉・目の描線は筆の入れ始め(向かって左)をややくねらせて鯨目風になっている。横拡がりの鼻、二筆の口は中を赤く塗っている。
そして何と言っても一番の特徴は、黒目の中を白く抜いていることである。この白眼により眼光が一層鋭くなり、横広の大きな鼻、中を赤く塗り潰した2筆の口と相まって、怪奇な表情を醸し出している。
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