第572夜:栄五郎の逸品!
5月も半ばを過ぎようとしているが、最近はこけしの入手も無く、本ブログの更新もすっかりご無沙汰してしまった。世の中に目を向ければ、ロシアのウクライナ侵攻を筆頭に、知床遊覧船の事故、美咲ちゃん関連の新発見などがあって、新型コロナ感染の報道は減ってきているものの、感染者数はゴールデンウィークを境にやや増加に転じていて予断を許さない。さて、先週のヤフオクに久し振りに心ときめくこけしが出品されていた。新山栄五郎の古作こけしである。自身の年齢から考えて見過ごす時間的余裕はないと考えて奮発した。今夜は、その栄五郎こけしを紹介しよう。口絵写真はその表情である。
こちらがそのこけしである。大きさは8寸1分。頭の嵌め込みはやや緩く、振るとクラクラ揺れて良く回る。頭は大きく縦長で、胴は中央やや上で括れを入れて絶秒の形に仕上げてある。赤と紫の太いロクロ線を主体にした蒔き絵模様は古式の雰囲気を醸し出しており、その色彩の素晴らしさに驚かされる。戦前物になると色が飛んで特に紫などは薄くなってしまいせっかくの色彩感覚が薄れてしまうのだが、本作では紫がほぼ退色なく残っており、保存の良さに感謝したい。頭頂の黒髪は中心部を白く抜いており、かなり深めに手描きされている。細い眉目、殆ど点状の鼻と口、それより少し大きめの赤い頬紅が微笑ましい。小さな点状の眼点が入った瞳は中央に寄って緊張感のある静かな視線を送っている。形体、描彩、保存状態とも申し分なく、昭和初期の栄五郎こけしの逸品と言って良いだろう。
国恵志堂には正末昭初と思われる栄五郎こけしがあるので、それと比べてみよう。左のこけしがそれである(第20夜参照)。大きさは7寸7分。御覧のように全く同手のこけしであることが分かる。栄五郎はかなり古くからこの様式のこけしを作っていたのであろう。胴の形体、蒔き絵の配色では、胴上下の赤の太いロクロ線が2本から1本に減った程度で、殆ど変わっていないことが分かる。一方、頭の形は大きく変わっている。左の作では横に広い平頭で、その形体の大胆さに驚かされる。第20夜でも述べたように、この平頭の上に大きな髷を載せて大名物の髷付き栄五郎が出来上がったのである。
この両者の頭部を正面、側面、上面から比べてみよう。頭頂部の黒髪では、中央の白抜きと3筆の前髪の有無、前髪の下の赤い飾りも右作では簡略化されて横に長い赤1筆となる。鬢も左作は3筆だが、右作では2筆となり、その後ろに耳状の鬢飾りが付いている。全体的な完成度という点から見ると、右作の方が上かも知れない。
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