第574夜:幸三郎と鉄寿(3)
筆者は高岡幸三郎と鉄寿親子のこけしに興味を持っており、そのこけしについては、第427夜と第430夜で紹介した。しかし、鉄寿のこけしに関しては、その製作数(従って残存数)が少ないこともあって、まだまだ不明な点が多いようだ。kokeshi wikiを参照すると、鉄寿のこけしは「7、8寸以上のこけしには多く桐を用い、それ以下はみづきであった。製作は多くなく、昭和11年ころのものが少数残っている。」とある。第430夜では、7寸5分の桐材の鉄寿を紹介したが、今回、ヤフオクでみづき材(?)の鉄寿を入手したので改めて紹介したい。口絵写真はその表情である。
こちらがそのこけしである。大きさは6寸。童宝舎コレクションの旧蔵品である。kokeshi wikiに掲載されている深沢コレクションの鉄寿こけしと胴模様は異なるが全く同手のこけしである。
第430夜の鉄寿こけし(左)と並べてみた。左は7寸5分で桐材、右は6寸でみづき材ということで、kokeshi wikiに記載されている2種類の鉄寿こけしということになる。そこで、この2本のこけしを比べてみよう。
先ずは木地形体。左作は、横長の平頭に胴裾が広がった胴を付け、頭は嵌め込みで回すことが出来る。一方、右作は、頭は更に横長であり、胴もほぼ直胴に近く、頭への差込で回すことは出来ない。
次に頭部描彩。左作は、頭頂部に大きな牡丹の花を写実的に描いており緑の葉も付いている。一方、右作では頭頂部の牡丹花は簡略化されており、葉の代わりに3本の黒線を描いている。また、左作は前髪が富士山型で、鬢も上部が離れ下部が窄まる形であるが、右作では前髪は筆を揃えて真っ直ぐに下し、鬢も同様に筆を揃えて描いたものである。
最後に胴の描彩。左作は、上に頭頂部と同じ写実的な牡丹花を描き、下には旭菊を描いている。一方、右作では上に牡丹を横向きに描き、下には牡丹を斜め上から描いている。
こうして比べてみると、左作は材が桐という事もあって手の込んだ極上品、右作は各所を簡略化した普及品という感じがしないでもない。普通に考えると、当初は左作のような極上品を作っていたが、次第に手馴れて来て右のような普及品を作ったということ。しかし、製作期間が昭和11年のほぼ1年くらいということを考えると、そこまでの変化があっただろうか…。当初から、極上品と普及品の2種類を作っていたのかも知れない。
改めて、頭部の描彩の違いを掲載しておこう。
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