第581夜:虎吉のアヤメこけし
2週間ほど前になるが、ヤフオクに表情の良い土湯系こけしが出品されていた。その形体と描彩から、虎吉か二代目虎吉の作ではないかと思ったが、胴底に署名は無く、工人を連想させる記載もなかった。気になったのは、胴中央に大きく描かれたアヤメの模様。そこで、Kokeshi wiwkiの虎吉の項を見てみると、昭和16年の作として数本のアヤメ模様のこけしが載っていた。しかしそれらのこけしはいずれも潰し目で胴底には「佐久間虎吉/岩代川俣」のゴム印があると言う。また、アヤメの形状もやや異なるようだ。結局、工人名は特定できないままに入手することとなった。その後、工人も判明したので報告しよう。口絵写真は、その表情である。
こけしが届いてから改めて工人を調べるつもりで、過去の「こけし談話会」を見直してみると、何と本ブログの第92夜「七郎・米吉・虎吉」に同手のこけしが載っているではないか…。当然、筆者もそれは見ており、写真に撮ったものであった。談話会に出たものは1尺の大物であったが、本稿のこけしと形体・描彩は全く一緒で昭和15年の作とのことであった。
さて、本稿のこけしをじっくり見てみよう。大きさは8寸。頭頂部がやや平たい頭部に胴は三角胴。湊屋の伝統的な木地形体と言ってよいだろう。頭頂部の蛇の目は小さく、太い黒線の周りに細い黒線を3本巻いている。前髪の後部は三角形に出っ張って蛇の目に繋がっている。カセは2本を垂らし、その後ろに3字状の線を付ける。鬢は長めで顎の部分まで伸びる。下瞼が長い瞳は明敏で凛々しさを感じさせる。黒2筆の口は、下の1筆に紅を添えている。
戦後の虎吉こけし(第576夜)と並べてみた。その差は明らかであろう。当時の愛好家が虎吉に戦前作の復元を勧めた思いが分かる。本稿の虎吉、保存も良い戦前虎吉の優品であるにも拘わらず、2万円に満たない額で落札できたのは幸運の一言に尽きるだろう。
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