第580夜:福寿の墨絵こけし
先日のヤフオクに福寿さんの墨絵こけしが出ていた。描彩を墨だけ(口など一部紅を使うこともある)で描いたこけしがあることは知られており、福寿さんの墨絵こけしも以前は手元にあった。昔から人形や玩具の類として作られてきたこけしは、赤を中心とした明るい色彩で飾られているのが当たり前である。その用途から墨絵こけしが色彩こけしより売れるとは考えられず、工人も愛好家からの依頼など特別の理由があって作ったものだろう。墨絵こけしは弔事に使われるというようなことを聞いた覚えもある。筆者も普通は墨絵こけしを入手しないが、他ならぬ福寿さんの作であり、昭和30年代の作で見所も多々あるために入手した。口絵写真は、その表情である。
こちらがそのこけしである。大きさは8寸。口を除いて墨一色で描かれたこけしである。通常、墨で描かれる面描の他、胴上下のロクロ線と胴模様の添え葉は普通の墨で描き、頭頂部の水引と鬢飾り、胴の菊花など通常は赤で描かれる部分を薄めの墨で描いている。この薄めの墨も濃さを2種類に分けて彩色に立体感を与えている。一筆目の小さな瞳が何とも愛らしい。
同時期の色彩こけし(右)と並べてみた。右こけしには「33.5.25」の紙が貼られている。結婚・独立してほぼ1年が経ち、福寿さんが精力的にこけしを作っていた時期のものである。一筆目のおとなしい表情であるが、胴模様の菊花は躍動感に溢れるような筆致である。
頭頂部の水引と署名である。水引は通常、前髪の結び目から放射線状に3~5筆で描かれるのであるが、この時期のものは4筆で後方になびくように描かれるのが特徴である。また、胴底の丸い鉋溝の中に名前と「作」を書くのは「高勘」本家の様式であり、福寿さんも昭和32年から34年頃まではこの様式を使っている。この墨絵こけしでは「寿」の字が旧字体になっていることから、右こけしより古く、昭和32年後半から33年前半の作と思われる。
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